「装飾は罪悪である」というセンセーショナルな言葉を残した建築家、アドルフ・ロース。今回は晩年の代表作「ミュラー邸」のインテリアを通して、この言葉の意味を考えてみましょう。
「ミュラー邸」の内部は、独自のラウムプラン(※)と呼ばれる設計手法の効果で、迷路のように複雑で面白い構成になっています。ここではあくまで「装飾」に注目しながら、インテリアデザインを見てみましょう。
※ラウムプラン:間取りを各階ごとに平面図形の組み合わせとして考えるのではなく、部屋を立体として捉えたまま3次元的に組み合わせて設計する、ロース独自の手法。
ミュラー邸内部。Photos:©kazuyoshi Miyamoto(「ミュラー邸 1930 チェコ アドルフ・ロース」より引用)
どんな印象を持たれましたか?
もちろん「装飾は罪悪」などと言う人の作った家なら、室内も外観と同じように、装飾が全くない無機質な空間なのだろう。何となくそう考えたくなりますが、思いのほかこってりとしたインテリアです。
まず暖炉のタイルや主寝室の壁紙など、ところどころに装飾が施されています。さらに装飾がない場所も、大理石の白い筋模様やマホガニーの木目、照明器具の光沢のあるゴールドや鏡など、様々な色やテクスチャーが使われ、部屋にかなり饒舌な印象を与えています。ロースはこのテクスチャーたちに、部屋を意図的に装飾させているのではないでしょうか?それなのに「装飾は罪悪」って、どういうことなのでしょう。
「装飾は罪悪」。この言葉だけをどこかで聴いて知っているという人は、筆者のように少し裏切られたような感じがするかもしれません。それはこの言葉が、強烈な印象のために多くの誤解を招いてきたということを物語っています。それでは、真意はどんなところにあるのでしょうか?それを理解するには、当時の建築、インテリアデザインをめぐる状況をみておく必要があります。
「新しい装飾」を求めた
19世紀末の人々
19世紀半ばのインテリアデザインは「歴史主義」と呼ばれています。これは、過去のさまざまな様式から好きな部分を適当に取り出して、ごちゃごちゃにミックスしたようなものでした。
「混乱」ともいえるこの状況から抜け出し、産業革命後の近代にふさわしい、芸術的な装飾様式を新たに作ろうとする運動が起こりました。それが、植物をモチーフとした曲線が特徴の「アールヌーヴォー」や、その強い影響を受けて、ロースと同時代に世紀末のウィーンで活躍した「分離派(ゼツェッション)」です。これらの活動は、「生活空間を総合的にデザインすること」を目指しており、従って部屋の隅々までアールヌーヴォー様式のインテリアで統一することが理想とされました。
そしてこの、「インテリアを完全にひとつの様式できれいにまとめようとする考え方」こそ、ロースが厳しく批判した考え方だったのです。
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次は「装飾は罪悪」という言葉の真意について、さらに考えていきます。
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(文:maki / 更新日:2012.10.20)