ヨーロッパに数多く残るゴシック様式の大聖堂。その空間は、おびただしい金銀宝石、そしてステンドグラスの光で飾られていました。
それらの装飾品には、教会を訪れる人々の心に神の偉大さを強いインパクトで刻みつける、という役割がありました。実際名もない民衆にとって、装飾は単なる飾りではなく「神をイメージし、信じるための手助けをしてくれる貴重な道しるべ」だったのです。
しかし、時代が変わるとこうした「装飾」に対する人々の態度は一変します。19世紀、合理的で機能的な「モダニズム」が建築の主流になっていく中で、装飾は「削ぎ落とすべき余計なもの」として立場を失いました。
モダニズムといえば、やはりコルビュジエやミース・ファン・デル・ローエなどがまず思い浮かびますが、それより前に彼らに大きな影響を与えた異色の建築家が存在したのです。
今回からその人、アドルフ・ロース(1870〜1933)の作品とその奇抜な主張について、さらにはるか昔から人類が行ってきた「飾る」という行為について、少し考えてみたいと思います。
「装飾は罪悪である」
アドルフ・ロースは、19世紀末から20世紀初頭に活躍したオーストリアの建築家です。若い頃にアメリカで学び、シカゴの高層ビルなどの合理的なデザインに大きな影響を受けた彼は、その機能重視の考え方をさらに徹底させ、独自の過激な建築論、文化論を展開しました。建築家としても、ウィーンのカフェ・ムゼウムやアメリカン・バー、ロースハウスなど、初期モダニズムの重要な作品を残しています。
しかし現在、ロースの名を多くの人に知らしめているのは、何といっても自身が残した「装飾は罪悪である」という言葉だと言ってよいのではないでしょうか。彼は「文化における進歩は、日用品から装飾を排除すること」だと主張しました。ロースによれば、装飾は未開の地の人間など、道徳観念がなく文化水準の低い人々のもので、ヨーロッパの洗練された現代人にはふさわしくないものなのです。その根拠を彼は次のように説明します。
例えばパプア人が敵を殺戮して食べたとしても犯罪にはならないが、同じことを現代人がすればそれは犯罪である。パプア人は自分の皮膚や船など、手に入るもの全てに刺青をするが、現代人が皮膚に刺青をしていた場合、そういう人間は犯罪者か変質者に決まっている。だから、同様にあらゆるものに装飾を施す現代人も犯罪者なのだー
ずいぶんと差別や偏見に満ちた言い分のように思えますが、この主張こそがのちの世代に大きな影響を与え、時代を形作っていったのです。
次回は、ロースの後期の代表作「ミュラー邸」のデザインを見ていくことにしましょう。「装飾は罪悪」という彼の信念は、どのようにデザインに反映されているのでしょうか。
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(文:maki / 更新日:2012.10.20)