ウィリアム・モリスにとっての「美」の本質を考えるうえでのキーワードのひとつ「歴史」についてお話してきました。今回はもうひとつの「自然」について考えてみましょう。もっともこれについては、彼の壁紙や染めの布地のパターンを見れば分かりやすいと思います。
生きている自然を思わせるデザイン
モリスの平面デザインの魅力は何でしょうか。こだわり抜いた透明感のある色と、その組み合わせのセンス。すっきりとした輪郭線がもたらすメリハリのある印象。しかし中でも特に私たちの心をとらえるのは、まるで生長して伸びていくかのような植物の生命感ある描写ではないでしょうか。特に初期の壁紙のデザインにそれが強く感じられます。
これらは版画のように、あるパターンを彫った版木を繰り返し位置を変えて紙の上に置いて刷られました。ですから当然、模様にはモチーフの繰り返しが見られるはずですが、モリスはそれを見る人が意識しないように、とても注意深くデザイン構成を行っています。それによって、植物は繰り返すモチーフの枠組みの中を曲がりくねっているのではなく、本当に陽の光を求めて上へ伸びていくように見えるのです。
彼の植物はどれも本物そっくりに描かれているわけではありません。適度に図案化しつつ、このようなみずみずしさを再現するということは、やはりモリスの非凡な力のなせる技です。小さい頃から森に入り浸り、自然の姿を異常なほどの観察力、記憶力で脳裏に焼きつけていた彼だからこそできたこと、といえるでしょう。
世界の「美」はどのようにして生まれるか
モリスは、本物の自然の生命力を想起させるようなすばらしいデザインで部屋の壁をいっぱいにしようとしました。
しかし、自然の美を讃え、暮らしの中にそれを取り入れたいのであれば、例えば庭の草花を摘んできて花瓶に生けるといった方法で充分ではないでしょうか?むしろその方が直接に草花の生命力を(いずれ衰えていくという本質も含めて)感じ取ることができるはずです。なぜ、図案という形にわざわざ翻訳した上で自然を鑑賞しなければならないのでしょうか。
モリスは「芸術の本当の意味は、自然に対する人間の尊敬の表現である」と言っています。
彼の考えでは、「自然をそのまま残すこと」が自然に対する尊敬を表すわけではありません。あくまで人間の手による「自然の加工」がそこになければいけないのです。
この世界における「美」は、「自然がもともと持っている美」と「人間が手で創り出す芸術の美」とが、時間をかけて融合してできたものである。モリスはこのように考えていました。
自然そのものだけでは、彼の考える美は完成しません。そこに、人間が身体と頭と感性で主体的に創り出す「芸術」が加わってはじめて美が生まれてきます。
だからこそ壁紙の図案のような、人の手による自然の表現が必要だとモリスは信じたのです。
次はモリスを離れて、柳宗悦の民藝運動について少し考えてみます。
普通の家庭にある日用品を美しいものに、という共通の理想を抱いた同士として、モリスに深い共感を寄せていた柳。しかし彼は「モリスデザインの壁紙などは見るに耐えない」と言い、「モリスが美しいものを作れなかったのは、工芸の美の本質を知らなかったからである」と身も蓋もない批判をしています。
それでは、柳の言う美の本質とはどんなものなのでしょうか。
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(文:制作 クリエイティブ事業部_PR / 広告-1 / 更新日:2013.02.11)