「漆は生きものです。」
津軽塗は、ベースとなる素地に布を着せ、漆を四十数回も重ねてから、地元でとれた砥石で模様を研ぎだし、最後は炭を使って磨きに磨き上げ、六十日以上も要して仕上げる。1600年末~1700年初頭、津軽藩四代藩主信正公の治政下、二代目池田源平衛が辛苦の末、津軽独自の漆法を生み出したのが始まりと言われている。
『自然の生き物を相手にしているから、毎回出てくる色や模様が違うんです。生きている漆だからこそ、何年もかけて変化していく色艶がある。そこが漆の魅力であり、面白いところなんです。』と語ってくれた木村正人さんは、1984年に津軽塗職人である父に弟子入りし、1999年伝統工芸士に認定され、これまで数々のコンペや工芸展で入 賞した実績をもつ。
昔は750名ほどの職人がいたが、今は250~300名程度となり、そのうち伝統工芸士の認定を受けている職人は28名ほどだという。
『どんな形にしても伝統を次ぎに残せたなら、それは成功なんだと思います。
そして、それが私達の使命なんです。』
という言葉が印象的だった。
木村さんは、もっと多くの人に津軽塗の可能性を感じて欲しいと、7年ほど前に製作した津軽塗見本板を並べてみせてくれた。その種類の多さと、鮮やかな色や柄に驚かされた。
まるで、ずっと眠っていた宝物を見せてもらった感覚だった。(上記写真参照)
職人×デザイナー
どんどん職人が減って行く一方で、近年伝統工芸品が見直され、各方面のデザイナーや建築家が伝統工芸の職人と一緒にモノを作るプロジェクトが多く出現している。
平成18年、中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」によって立ち上げた『つがる漆スピリット合同会社』もそのうちのひとつである。海外にも誇れる津軽塗商品を開発し、パリやイタリア、ドイツの見本市に出展している。津軽塗の良さをきちんとを理解し、尊重してくれるデザイナーや建築家と一緒にモノを作る時は、すんなりといいものが生まれるという。
右/下写真: kitchen knife kit box
※ wallpaper社 ハンドメイドプロジェクトにて建築家
芦沢氏と共同開発
2011年 ミラノサローネ出展
すべてがカスタム
津軽塗は、独特の斑点模様が特徴の唐塗
漆の上に菜種を落として魚の卵(ななこ)の形を出す七々子塗
炭の粉を蒔いて研ぎ、漆黒の模様を浮き出たせた紋紗塗
七々子塗の地に唐草や紋紗型模様を描きこんだ錦塗の四種類が代表的だ。
左から唐塗、七々子塗、紋紗塗、錦塗
上記であげた四種類をベースに、異なった色、模様は無限に存在する。
木村さんは、お客様とコミュニケーションを大切にしながら、要望に合ったお気に入りの一品を作っていく。 丁寧な下地処理と、塗っては乾かし、研ぐことを何度も繰り返すことで生まれる製品の丈夫さが津軽塗のよさでもある。
形さえしっかりしていれば、何十年も使い古くなったものを、新品同様に仕上げることができるという。その際、気分を変えて、違った柄や色にすることもできてしまう。
使い捨てを好む時代から、いいもの(本物)を長く愛用する時代へと変化してきている今のニーズにマッチしており、今後も可能性が広がる。
知って、使って、感じるよさ
上:「津軽蛍」特許出願中
デザイン: ㈱田中デザインオフィス 工学博士 田中央さん
大切なのは日々使うこと
漆と聞けば、高価でお手入れが大変。と構えてしまう人がほとんどだが、注意点さえ気をつければ取り扱いは決して難しくはない。もっともっと漆を普段の暮らしの中に取り入れてほしい。それが、木村さんを始め、多くの職人たちの願いだ。そしてそれこそが、伝統を次へ残して行く近道となるであろう。
伝統を背負った職人たちは、お客様の声を聞き、その意見や要望から時代に合った新しい津軽塗の形を日々生みだしている。
01: これから仕上げられるお椀
02: 斬新なデザインの下駄模様
03: 美しいフォルムのUSBメモリ
漆の取り扱い
漆器のにおい
ご使用まえにぬるま湯で洗い、水気をよく切ってから薄めた酢で拭くとにおいは消える。
洗い方
水やぬるま湯で、一般の家庭用洗剤でスポンジを使って洗って問題はない。ただし、スポンジの裏の固い部分や、固いナイロン、たわし、クレンザーなどは傷がつくのでNG! 特にこびりつきがある時には、数分ぬるま湯につけてから洗うと、大抵の汚れは落ちる。変色、変形、破損の原因になるので、食器洗い乾燥機、電子レンジやオーブン、直火などの使用は避けたほうがよい。
取材協力者:弘前商工会議所 http://www.hcci.or.jp/
つがる漆スピリット合同会社 http://u-spirit.jimdo.com/
自然との共存、未来に残すべき伝統をテーマに、デザイナーとしてできる事を追求し、具現化しながら、物・空間に新しい命を吹き込んでいく。2006年から株式会社Wonderwallで5年間店舗設計に従事し、数々の海外物件に関わる。2011年に独立後は、現在のニーズを満たすサスティナブルデザインと、洗練された日本の技術を融合させ、新しい日本のデザインを世界へ広めていくミッションをもって活動を始めている。
(文:谷 真弓 / 更新日:2011.09.26)