デザインを考えるとき、過去から引用することは多いですね。それを効果的に活かすためには、その過去のものの持つ背景や思想についてより深く知り、考え、理解することが大切です。「もう一歩深く知るデザインのはなし」は、デザインに関する事柄からいくつかを取り上げ、その周辺や様々な背景について考えることで、読者の方々に「もっと知りたい」と思っていただくことを目指しています。
このページでは、「茶室」と「光」の間の深い関係について考えてみましょう。
茶室における光の取り入れ方と空間演出
日本が世界に誇る文化のひとつ「茶の湯」。それを営むための空間が茶室です。この記事では、茶室の空間デザインについて特に光の扱い方を中心に調べ、時代の流れに伴うその変化を探ります。まず千利休の師匠、武野紹鴎(たけのじょうおう)の作った茶室から。彼は「茶室は薄暗くすべき」とし、必ず北側から光が入るように茶室をデザインしました。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.5/茶室×光
「革命児」千利休の演出手法
茶の湯に革命を起こし「わびさび」の思想を確立した千利休。彼のデザインした茶室もまた、当時の常識を打ち破るものでした。利休の代表作「待庵」の内部空間は、それまでの茶室よりも光と影の対比が強く、何も飾りがないのにとてもドラマチック。演出の秘密は、光の取り入れ方と遮断のしかた、そして光を反射しない内部の仕上方法にありました。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.6/茶室×光
待庵のデザインに凝縮された「わびさび」の思想
利休の代表的な茶室「待庵」。その小宇宙のような空間には、贅沢せず有り合わせのもので美を創造する「わびさび」の美意識が余すところなく表現されています。一見粗末とも思える荒壁に、塗装しない柱などの部材…「飾る」という行為を排除し、本質だけが剥き出しになった室内空間は、自然の光の濃淡で彩られることで美しい表情を見せるのです。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.7/茶室×光
明るく堂々としたデザインの「燕庵」
利休の死後、茶道は大きく変化しました。それは彼の後継者、古田織部(ふるたおりべ)の茶室によく現れています。織部のデザインした「燕庵(えんなん)」は利休の「待庵」と比べて窓が多く、しかもその配置はまるで舞台背景のように視覚的にデザインされています。光の取り入れ方も、室内空間を演出する方法も、全く違うものになっているのです。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.8/茶室×光
時代の変化が茶室を変化させた
神秘的な利休の「待庵」と、明るく堂々とした織部の「燕庵」。建てられた時期は数十年しか違わないのに、その魅力は全く違います。織部は師匠の利休を心から尊敬しながらも、時代の変化に合わせ新しい趣向の茶室を作りました。その陰には、政治的背景や人々の価値観の変化、そしてそれらを意図的に誘導した権力者、豊臣秀吉の思惑があったのです。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.9/茶室×光
この記事は2012年に掲載した「もう一歩深く知るデザインの話」をシリーズごとにまとめたものです。
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(文:maki / 更新日:2016.01.28)