オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ /ADO」展
東京オペラシティアートギャラリーで開催
東京オペラシティアートギャラリーでは、2016年9月17日[土]より11月23日[水]まで、「オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ /ADO」を開催します。
ヘリット・トーマス・リートフェルトとディック・ブルーナはオランダのユトレヒトに生まれ、20世紀のデザインに大きな影響を与えた巨人です。家具職人から出発し、世界的な建築家となったリートフェルトは、名作椅子《レッド・ブルー・チェア》や、世界遺産にも登録されている《シュローダー邸》など、純粋な色彩と幾何学フォルムを使った斬新なデザインで注目を集めました。ブルーナは夥しい数のグラフィック・デザインと、とりわけ世界中で親しまれている「ミッフィー(うさこちゃん)」の絵本シリーズの作者として有名ですが、そぎ落とされた造形要素で多様な表現を紡ぎ出す手法は、リートフェルトからの影響も窺えます。二人の仕事は一見対照的に見えますが、共にオランダの歴史・風土に根ざし、「基本的な要素による純粋な表現」という点で、根幹となるデザインの理念を共有していると言えるでしょう。
本展ではさらにリートフェルトとブルーナを結ぶ存在として、オランダの国民的玩具シリーズADO(アド)を日本で初めて紹介します。ADOはデザイナーのコー・フェルズーの指導のもと、サナトリウムの患者の作業療法として製作が始まりました。造形活動を社会貢献の場として活かすだけでなく、その高いデザイン性でオランダ中の子どもたちを楽しませたのです。リートフェルトとブルーナ、そしてADO、本展は異なる時代のユニークな三つの視点で、生活に深く結びついたオランダのデザイン文化、その人間味溢れる魅力を探ります。
| ヘリット・トーマス・リートフェルト(1888-1964)
世界を変えた椅子《レッド・ブルー・チェア》
リートフェルトは、富の象徴としての伝統的な家具に飽き足らず、真に現代的な生活のための新しい家具や建築を模索し、モンドリアンらのはじめたオランダの前衛芸術運動「デ・ステイル」(1917-32)に参加しました。デ・ステイルは、三原色と直線というもっとも基本的な造形要素によって新たな環境を生みだすことを目指していました。リートフェルトの名作椅子《レッド・ブルー・チェア》(1918-23頃)は、デ・ステイルの色彩とともに、材と材を互い違いに交差させるユニークなジョイント構造で際だっています。それは、家具の新しい概念と、のちに建築にまで広がっていく独自の空間性をきりひらくものでした。
「デ・ステイル」とは?
第一次世界大戦中のオランダで創刊された雑誌の名前であり、デ・ステイルとは「様式(ザ・スタイル)」の意味です。モンドリアンの抽象絵画にみられる水平垂直の線、赤・青・黄色の三原色と黒と白のみを使うなど、単純・明快な色と構成を美術だけでなく、建築やインテリアにも広げていこうとするものでした。デ・ステイルの活動は、バウハウスやロシア構成主義をはじめ、建築のインターナショナルスタイルなど、20世紀のデザインに大きな影響を与えました。
| ディック・ブルーナ(1927-)
グラフィック・デザインにみるメイキング・オブ・ディック・ブルーナ
マティスやレジェらモダン・アートに啓示を受けアーティストを志したブルーナは、1951年から本の表紙やポスターを本格的に手がけ、1955年からシリーズ化されたペーパーバックの表紙デザインは以後20年で約2,000点に及びました。そこではグラフィック・デザインが持つべき視覚的インパクト、表現のシンプルさ、そして平面における線と色彩の強度など、あらゆる課題やテーマへの取組みが系統的になされており、まさにブルーナのデザイン語法と哲学が確立していくさまが見て取れます。
シンプルな線と色彩が紡ぎだすブルーナの絵本の世界
ブルーナが平行して熱心に取り組んだのが絵本の制作です。とりわけ1970年代以降は絵本作家としての活動に軸足が移り、「ミッフィー(うさこちゃん)」のシリーズをはじめとして多くの絵本が各国語に翻訳されてきました。黒い輪郭線と赤・黄・青・緑の4色(のち茶と灰を加えた6色)の色面のみによる表現。そして韻をふんだ文章とイラストが交互に並ぶ24頁を15.5センチ四方の正方形に収める基本フォーマット。定められた条件のなかで多様に展開するブルーナ絵本の世界は、シンプルであるがゆえに普遍性と、見る者の想像力がはたらく余地を充分に残す懐の深さを兼ね備え、さらに特有の大らかさ、素朴さ、人間的な暖かさによって、世界中の人々を魅了しています。
ブルーナのデザインとオランダの物づくりの伝統
ブルーナが極めて限られた基本要素によって驚くほど多様な表現を実現させていることは、オランダのデ・ステイルの美学を、彼が受け継いでいることの証ともいえるでしょう。そしてなにより、与えられた条件のなかでやり繰りし、工夫を重ね、もっとも適切で合理的な答えを出し、それとともに生きてゆくことをよしとする、オランダの物づくりの伝統と生活倫理は、ブルーナがリートフェルトと共有する最大の特質といえるでしょう。
ADO 《散水車》 1939年
CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen
ADO 《家具のトレーラー》 1953年
CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen
ADO(アド)とコー・フェルズー(1901-71)
作業療法として始まった ADO1920年に開業したアペルドールン近郊の結核療養のためのベラハ・エン・ボッス・サナトリウムでは、回復の最終段階にある患者を対象に、木工制作の作業療法(労働セラピー)が行われていました。ADOの玩具シリーズは、この作業療法が1925年に企業化されたことで生まれました。美術に詳しいデザイナーのコー・フェルズーが責任者に任命され、彼のデザインと指導のもと、患者らによって制作されたのがADOの玩具シリーズなのです。ADOは「Arbeid door Onvolwaardigen障がい者による仕事」の意で、患者達には賃金が支払われ、彼らの回復と社会復帰の手助けとなりました。ADOは造形を通した社会的な実践だったのです。
コー・フェルズー、ADO《ジャンピング・ジャック(操り人形)》、1925年頃、
CODA ミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen
オランダの国民的玩具フェルズーは、新しい教育思想にも通じていました。彼は子どもの美的感性や想像力を伸ばすことを重視して、「実際の玩具の形は、シンプルかつ明晰にものの本質を表していなければならない。そうしたものだけが、子どもたちが想像力を心ゆくまで働かせることを可能にする」と述べています。フェルズーはまた、同時代の建築やデザインの動向も熟知し、リートフェルトをはじめとするオランダの家具から影響を受けていました。フェルズーの指導により、ADOは、「モダンなデザイン、丈夫なつくり、子どもに適した色彩、教育的な価値」といった評価を得て、オランダ中の子ども達に愛されるようになったのです。
展覧会プレスリリースより
[開催概要]
展覧会名:オランダのモダン・デザイン リートフェルト /ブルーナ /ADO
会期:2016年 9月17日[土]─ 11月23日[水・祝]
会場:東京オペラシティアートギャラリー
開館時間:11:00 ─19:00 (金・土は 20:00まで/最終入場は閉館の 30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合、翌火曜日)
入場料:一般 1,200(1,000)円/大・高生 1,000(800)円/中学生以下無料
*同時開催「収蔵品展056 川口起美雄|野又穫 ふたつのアナザー・ワールド」、「project N 65 児玉麻緒」の入場料を含みます。
*収蔵品展入場券200円(各種割引無し)もあり。
*( )内は15名以上の団体料金。
*障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。
*割引の併用および入場料の払い戻しはできません。
お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
ウェブサイトhttp://www.operacity.jp/ag/ https://www.facebook.com/tocag
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団、朝日新聞社
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人
後援:オランダ王国大使館
企画協力:セントラル・ミュージアム・ユトレヒト
特別協力:CODAミュージアム、大阪新美術館建設準備室、KLMオランダ航空
協力:株式会社ディック・ブルーナ・ジャパン、Mercis bv, 福音館書店、グリーンポイント株式会社
コーディネート:株式会社アートプランニングレイ
(文:インテリア情報サイト編集部-1 / 更新日:2016.09.10)