パナソニック汐留美術館
「開館20周年記念展 中川衛 美しき金工とデザイン」開催
―工業デザイナーから金工作家へ人間国宝・中川衛を本格的に紹介する初の展覧会―
パナソニック汐留美術館は、開館20周年を記念する展覧会第二弾として、パナソニック出身で、金沢を拠点に活動する金工作家・重要無形文化財「彫金」保持者(人間国宝)、中川衛(なかがわまもる) の展覧会「開館20周年記念展 中川衛 美しき金工とデザイン」を2023年7月15日(土)~9月18日(月・祝)の会期で開催します。
中川の前半期の金工作品から最新作までを辿るとともに、デザイナーとして活動した 1970-80年代の工業デザイン、金工の道に進む原点となった加賀象嵌の名品、わざを受け継ぐ次世代の作品まで、作品と資料を合わせて約100点により、中川の制作に息づくデザインの精神と、伝統技法の継承を目指すさまざまな取り組みを見つめます。
《展覧会のみどころ》
人間国宝・中川衛の仕事を「デザイン」の視点で展観する初の展覧会
重要無形文化財「彫金」保持者(人間国宝)・中川衛の初期から最近までの活動を幅広く網羅した展覧会であり、さらにその仕事を「デザイン」という視点で展示構成します。デザイナーとして出発したことが、その後の金工作品の制作工程や、意匠に対する考え方など、中川の工芸の根幹をなしているということを伝えます。
「工業デザイン」と「伝統工芸」をつなぐ展示空間づくり
中川衛は「工芸も工業デザインも発想や創作の展開は同じである」という考えのもと、デザイナー/工芸作家として、象嵌の制作に臨んでいます。そうした中川の創作姿勢を体感していただくため、本展では、中川のシャープなプロダクトデザインと、華麗な伝統工芸にみられる連続性に着目し、展示空間においても地続きでみせることを試みます。
世代・ジャンル・国境を超えた現代金工の拡がり、魅力再発見へ
中川衛は、技術の継承を重んじて後進の育成に尽力し、積極的に海外研修を行うなど国際的な視野で活動を展開しています。本展では、中川の作品とともに、中川に教えを受けた作家や、独自に象嵌を追求する作家、また中川と異分野のアーティストとのコラボレーション、海外での滞在制作などを紹介します。
中川 衛 2022年
中川 衛プロフィール
中川 衛は1947(昭和22)年、石川県金沢市に生まれ、金沢美術工芸大学産業美術学科で工業デザインを専攻し、柳宗理や平野拓夫らの薫陶を受けました。1971(昭和46)年に同校を卒業後、大阪の松下電工(現パナソニック)に入社し、美容家電製品などのプロダクトデザインに携わります。27歳で帰郷し、石川県工業試験場に勤務していた頃に、石川県立美術館で行われていた鐙(あぶみ)の展覧会を観たことがきっかけで、加賀象嵌鐙(かが ぞうがん)に魅了されました。「加賀象嵌」で石川県の無形文化財保持者に認定された彫金家の高橋介州(1905~2004)に入門し、工業試験場に通いながら修業し、日本伝統工芸展に出品していきます。その後も入選・受賞を重ねて作家として頭角を現し、2004(平成16)年には金工の技術継承に尽力した功績により、重要無形文化財「彫金」保持者(人間国宝)に認定されました。また今日まで、母校の金沢美術工芸大学をはじめとして、後進の育成に尽力する一方、積極的に海外研修を行うなど国際的な視野で活動を展開しています。
1947(昭和22)年 石川県金沢市に生まれる
1971(昭和46)年 金沢美術工芸大学産業美術学科卒業、松下電工株式会社に入社
1974(昭和49)年 石川県工業試験場に勤務 加賀象嵌の高橋介州に師事
1979(昭和54)年 第26回日本伝統工芸展初入選
1981(昭和56)年 石川県現代美術展最高賞受賞
1982(昭和57)年 日本工芸会正会員
1988(昭和63)年 第35回日本伝統工芸展「朝日新聞社賞」受賞
1989(平成元)年 (財)美術工芸振興佐藤基金第6回淡水翁賞受賞
1996(平成08)年 金沢美術工芸大学教授就任(~2013(平成25)年退任)
2002(平成14)年 第13回岡田茂吉工芸部門大賞受賞(MOA美術館)
2003(平成15)年 日本伝統工芸展50年記念展「わざの美」出品
2004(平成16)年 重要無形文化財「彫金」保持者認定、伝統文化ポーラ賞優秀賞受賞
「人間国宝 中川衛 金工展」(日本橋三越本店)
2009(平成21)年 紫綬褒章受章
2012(平成24)年 「日本人間国宝ー中川衛金工創作展」(新北市黄金博物館,台湾)
2018(平成30)年 瑞宝中綬章受章
パブリックコレクション
メトロポリタン美術館、大英博物館、文化庁、国立工芸館、式年遷宮記念神宮美術館、石川県立美術館、金沢卯辰山工芸工房、金沢市立中村記念美術館、金沢21世紀美術館、金沢市立安江金箔工芸館ほか
コラム 中川衛の象嵌技法とは
中川が追求する「象嵌」とは、金属の表面を鏨(たがね)で彫り、できた溝に異なる金属を嵌めこんで模様を作り出す技法です。象嵌部分の深さはわずか1mm以下と非常に薄く、精緻な仕事が求められます。特に中川は、複数の異なる金属の層を組み合わせて意匠を構成する、難易度が高いとされる「重ね象嵌」を極めていきました。そのことにより、シンプルな幾何学的模様から、実際の取材に基づく自然描写へと、表現の幅が広がりました。「工芸も工業デザインも創作の展開は同じである」と語る中川は、企業で身につけたデザイナーとしての制作手法を生かして金工の試作を重ね、日常生活にヒントを得た立体のフォルムと、自身の記憶から紡ぎ出した抽象文様により、現代的な象嵌の作風を築きました。
中川衛 《象嵌朧銀花器「北杜の朝」》
2016年 パナソニックホールディングス株式会社蔵
作家がスウェーデンで目にした景色をスケッチし、その様子を金、銀、赤銅など種々の金属の重ね象嵌により悠々と表現した。本作は第63回日本伝統工芸展に出品された後、パナソニック創業100周年記念に際して、山形パナソニック株式会社、山陰パナソニック株式会社、パナソニックCM沖縄株式会社の3社から寄贈された。
《「の」の字文象嵌鐙》 17世紀(江戸時代) 加賀本多美術館蔵
鐙とは乗馬する際に鞍の両側に吊るして足裏を支える馬具である。この鐙は二代本多政長所用で、全体に施された平仮名の「の」の字は政長の字形を文様にしたと伝わる。石川県指定文化財。中川衛が金工の道に進む原点となった鐙で、作家はその洒脱なデザインに魅了された。今回は名品とされる《金銀象嵌水引文鐙》(公益財団法人前田育徳会蔵)とともに紹介し、鐙の象嵌に見られる高い意匠性を紹介する。
高橋介州《加賀象嵌 埴輪馬置物》 20世紀(昭和時代) 公益財団法人宗桂会蔵
高橋介州(1905~2004)は、東京美術学校の聴講生として海野清に彫金を学び、金沢市の金属業界指導員や教師をしながら帝展等に入選し、戦後は日展で活躍した。石川県工芸指導所長や石川県立美術館長などを歴任し、石川県内の工芸振興とともに中川衛ら後進の育成に尽力した。加賀象嵌の伝統を踏襲した緻密な平象嵌を得意とし、動物形の作品は愛らしくも洗練された作風が見どころである。本作では、難しいとされる曲面を帯びた造形に正確に象嵌を施している様子が窺える。
中川衛 《象嵌朧銀花器「チェックと市松」》 2017年 金沢市立安江金箔工芸館蔵
中川が大英博物館のキュレーターに「象嵌でタータンチェックを表現してはどうか」と勧められたことをきっかけに着手した作品だが、中川はさらに日本の伝統文様である市松を掛け合わせ、金、銀、赤銅、四分一(銀と銅の合金)の重ね象嵌をもって表現し、清潔でモダンな仕上がりの抽象文様へと昇華させた。中川の重ね象嵌の技術が結実した近年の代表的作品の一つである。第64回日本伝統工芸展出品作。
中川衛・舘鼻則孝《Heel-less Shoes "Downtown I"》 2022年個人蔵
2022年秋、文化庁の令和3年度伝統工芸超分野交流事業の一環で、レディー・ガガの靴で知られるコンテンポラリー・アーティスト舘鼻則孝との共作をMOA美術館にて展示した。本展では新作を発表する予定。異なる素材を用いるアーティストともコミュニケーションをとりながら活動の領域を広げていく、中川の柔軟な活動姿勢にも注目したい。
【開催概要】
展覧会名:開館20周年記念展中川衛 美しき金工とデザイン
20th Anniversary Exhibition Nakagawa Mamoru Design and the Lustrous Beauty of Metal
会期:2023年7月15日(土)~9月18日(月・祝)
会場:パナソニック汐留美術館
〒105 -8301 東京都港区東新橋1-5 -1パナソニック東京汐留ビル4階 ⇒ map
開館時間:午前10時~午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
※8月4日(金)、9月1日(金)、9月15日(金)、9月16日(土)は夜間開館を実施いたします。
午後8時まで開館(ご入館は午後7時30分まで)
休館日:水曜日(ただし9月13日(水)は開館)、8月13日(日)~17日(木)
入館料一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
主催:パナソニック汐留美術館、朝日新聞社
後援:公益社団法人日本工芸会、港区教育委員会
特別協力:公益財団法人ポーラ伝統文化振興財団、公益財団法人宗桂会
公式HP: https://panasonic.co.jp/ew/museum/
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(文:制作 PR-M _PR制作部-1 / 更新日:2023.06.10)