有機ELの可能性を、日本の「夜桜」に表現〜Kaneka(カネカ)〜
化学技術の立場から、医療・樹脂・ケミカル・エレクトロニクス・食品など、様々な分野で研究開発を行い、新しい事業や製品を提供する「カネカ」が、数年来研究を重ねてきた「有機EL」を携えて、今年のミラノサローネに出展しました。
カネカが自社の有機ELを用いて表現した世界は「日本の酒場」。伝統的な“場”と、新しい光源としてLEDとともに注目される次世代のデバイス・有機ELを組み合わせ、独創的な世界観を表現しました。空間デザインを担当したのは、キヤノンと同じく「トラフ建築設計事務所」。照明デザインは、自らもプロダクトデザインも手がけつつ、商業施設から展示会、アート展と各界からの引き合いも多い注目株「岡安泉照明設計事務所」が担当。
エントランスの大きなのれんをくぐると、空中に浮かぶ光の連鎖が目に飛び込んできます。階段を上がり、中央フロアにはメイン展示「夜桜」が。日本独特の習慣、夜の桜を愛でながら酒を酌み交わす・・・その情景を、空間全体を使いながら有機ELの光で表現。現在、5種類の色を表現することができるカネカの有機ELで見せたのは、桜そのものではなく、あえて夜桜の照明。しかしながら、面で光を放つ有機ELの特性とそのデバイスとしての限りない薄さをそのまま見せ、光源はマグネットで留めるなど、シンプルでもメカニカルな印象を与えつつ、少しかわいく見せる要素も取り入れ、“照明器具にしない”アイデアが随所に。
メインフロアを抜けるブリッジゾーンでは、2枚の有機ELパネルを1つに組み合わせ、2色の光を放つ小さな照明を展示。シェードにトレーシングペーパーを使い、真っ白く優しいテクスチャーを見せながら、有機ELの低温性をアピールしていました。
「トラフ建築設計事務所」の禿真哉(かむろ・しんや)氏によると、新しいデバイスを利用した製品が売れるかどうかという部分で、素材そのものの訴求力が重要とのこと。有機ELの“剥き出し”を使うことで、プロダクトとしての方向性を探り、また今後の可能性を見せていきたいというカネカの思いが、“場”に込められていた展示でした。
(文:宮内 有美 / 更新日:2011.05.09)