デザインを考えるとき、過去から引用することは多いですね。それを効果的に活かすためには、その過去のものの持つ背景や思想についてより深く知り、考え、理解することが大切です。「もう一歩深く知るデザインのはなし」は、デザインに関する事柄からいくつかを取り上げ、その周辺や様々な背景について考えることで、読者の方々に「もっと知りたい」と思っていただくことを目指しています。
今回は、建築史のなかでひときわ異色を放つモダニズムの先駆者、「アドルフ・ロース」についてです。
建築界の異端児、アドルフ・ロース
20世紀初頭。産業革命を経て「モダニズム」が建築の主流になりつつあったこの時代、建物から「装飾」がどんどん排除されていきました。その中で「装飾は罪悪である」と主張し世間を大いに騒がせ、後の建築界に影響を与えた異色の建築家がいます。その名はアドルフ・ロース。今回から、その奇抜な主張に迫ってみたいと思います。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.13/装飾は罪悪か
誤解される「装飾は罪悪」論
「装飾は罪悪である」という衝撃的な言葉を残した建築家、アドルフ・ロース。きっと彼の建築の内部も装飾のないシンプルな空間だろう、と思いますよね。けれど彼の作った空間は意外に様々な色やテクスチャーが使われています。しかも一部「装飾」が施されている場所も。自分で「装飾は悪だ」と言っているのに、です。彼の真意はどこにあるのでしょうか。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.14/装飾は罪悪か
住空間の主役は、装飾ではない
19世紀末に登場したアール・ヌーヴォー様式。当時の富裕層の家はどこも、隅々まで完璧なアール・ヌーヴォーでした。アドルフ・ロースはそんな空間を「白々しい」と批判しました。「装飾は悪」発言は決して「空間から装飾を一切なくすべきだ」という極端な主張ではなく、部屋をひとつの装飾様式で揃えるなど「装飾にこだわること」への批判だったのです。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.15/装飾は罪悪か
「立派な人間は装飾に関心など持たない」?
アドルフ・ロースは「装飾は罪悪」という言葉で、装飾や様式にこだわる態度を批判しました。そこまで嫌った装飾や装飾様式とは、彼にとって何だったのでしょうか。実は彼は「装飾は性的衝動の現れである」と断言しています。装飾のスタイルに拘ったり、装飾デザインを新たに生み出したりすることは、彼に言わせれば「非常に恥ずかしいこと」でした。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.16/装飾は罪悪か
後世に影響を与えた「装飾は罪悪」論
「装飾は性的衝動と同じ」という発言で物議をかもしたアドルフ・ロース。彼の言説は、一般の人に理解されることはほとんどありませんでしたが、同時代や後世の建築家たちには大いに影響を与えました。あのル・コルビュジェも「文化が向上すればするほど装飾は影を潜める」と言い、これはアドルフ・ロースの影響を受けた考え方であると述べています。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.17/装飾は罪悪か
私たちはなぜ「装飾する」のか
なぜ私たちは、自分の部屋を装飾するのか。おそらくロースが言ったような「性的衝動」からではありませんね。「好きなものに囲まれて過ごしたいから」「自分の世界を作りたいから」という人が多いのではないでしょうか。過去の時代においては、装飾には「祈り」がこめられていました。人間にとって「装飾」とは何なのか、ひとつの仮説を立ててみましょう。
もう一歩深く知るデザインのはなしvol.18/装飾は罪悪か
この記事は2012年に掲載した「もう一歩深く知るデザインの話」をシリーズごとにまとめたものです。
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(文:maki / 更新日:2016.02.04)