各国のインテリアデザイン・プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・インダストリアルデザイン業界の有名デザイナーを紹介していく、「デザイナーをもっと知ろう!!」シリーズ。
第3弾は佐藤 卓氏です。個人的に好きなデザイナーの一人でもあります。
佐藤 卓氏は、日本のグラフィックデザイナー。
パッケージデザインやアートディレクションを中心に活躍しています。また深澤直人氏同様、21_21 DESIGN SIGHTディレクターでもあります。
デザインに興味がないという方でも、彼のデザインしたものは必ずどこかで目にしているはずです。ロッテのキシリトールガム、明治乳業の明治おいしい牛乳、ニッカ ピュアモルト、NTTドコモ 携帯などを彼が手掛けました。
こういった日常のものにもデザインは含まれているのです。
≪経歴≫
1955年 東京都に生まれる
1979年 東京芸術大学デザイン科卒業
1981年 同大学院修了、株式会社電通に入社
1984年 佐藤卓デザイン事務所設立
佐藤卓氏は、高校生時代、学業には力が入らず、逃げるように美術大学受験を決意。そしてお茶の水美術大学で1浪して芸大デザイン科に入学。
大学3年の時からロックバンド「ミネソタ・ファッツ」のパーカッション担当としてライブハウスで活動を行っていました。このーカッショニストの道を諦めきれず大学院に進んだのですが、結局その道では飯が食べられそうもなく、まったく興味の対象ではなかった広告代理店「電通」を受けます。そして予想外に入社が決定。突然広告の世界に入り、最初に出会ったアートディレクターが鈴木八郎さんでした。あるランチの席で「きみはデザイナーに向いてないねぇ」という一言に目が覚めます。
入社2年が経ち、いろんな意味で佐藤卓氏にとって転機となったのが、「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発プロジェクトでした。
担当になった際、「既に販売されているものを自分があまり飲みたくない。」と気づきます。そしてそれはなぜだろうと理由をじっと考えながら言葉に置き換えていきました。そうすると、まずメーカーのことを自分は何も知らないということに気がついたそうです。そこでメーカーのことを調べると、さらに次々に色んなことを知りたくなります。ここから商品のデザインを手がけている際、佐藤卓氏は必ず現場に足を運ぶようになります。渡されたモノを自分自身が良いと思えないときに、どうすればいいのか。良いと思えないものを割り切って売ることはできません。その時佐藤卓氏がたどり着いたのは、広告以前に遡り、商品開発から携わるという解決方法でした。
佐藤卓氏は当時の上司から許可を得、商品開発から広告展開までトータルに提案する自主プレゼンを行いました。このとき、自分たちが考えたことをどう伝えればそれが具現化されるか、とことん仲間と議論を重ね、知恵を絞ったそうです。そして佐藤たちは衣食住のさまざまな場面で高感度の人たちがどういうものを望んでいるのかについて、具体的なイメージを写真に撮り、スライド映像を見せました。
佐藤卓氏が学んだのは強引に相手を説き伏せるのではなく、「なぜこれがいいのか」ということを分かりやすくメンバーで共有するコミュニケーションの重要性です。そのプロセスを踏んでいくことによって、いろんな環境が整えられると佐藤は強調しています。
プロとしての佐藤卓氏の大きな資質の1つが、あらゆるものに対する旺盛な好奇心、「なぜこうなんだろう」という疑問を抱く能力であることは恐らく間違いないでしょう。その疑問を1つひとつキーワードに置き換えていく作業が、佐藤卓氏が現場で問題を解決する際の大きな推進力となっているようです。
「世の中には面白く無いものなんて1つもない」
この佐藤卓氏の基本的なスタンスが確立されてきたのも、この「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発プロジェクトがきっかけでしょう。
しかし「ニッカ・ピュアモルト」の採用決定を待たずに電通を3年と少しで退社します。辞める間際に商品化が決定し、退社後初の仕事として「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発、例えば中身、値段、ネーミング、パッケージデザインなどすべての工程に携わります。このウィスキーが1984年に発売され、その後の仕事に繋がっていき、現在に至ります。
また佐藤卓氏のデザインに対する考えは、独特です。
著名なデザイナーやアーティストには、独自のスタイルを持ち、それがセールスポイントになっている場合が多いです。デザイナーという職能が社会の中でまだきちんとした場所を確保していなかったころには、「独自のスタイルを作るべし」という考え方が主流でした。しかし、決まったスタイルを作るべきだという考え方に佐藤はずっと疑問を抱き続けてきました。佐藤の手がけた商品を見てみると、同じパッケージデザインでも例えば「大正製薬 ゼナ」のように声高に存在感をアピールするものもあれば、「明治おいしい牛乳」のように柔らかで静かな表現で安心感を与えるものもあります。2つのパッケージを予備知識なしに並べてみれば、同じデザイナーが手がけたことを見抜ける人はそう多くないでしょう。
その背後には「自分は中身をいちばん良いかたちでお客様に届けるために、企業や社会が持っている技術をうまく使ってつないでいるだけ」という、仕事に対する佐藤の意識があります。
佐藤卓氏のデザインのきっかけやテーマにも決まったスタイルは在りません。唯一決めているのは、「決めないこと」だと佐藤は笑います。その時に抱えている問題意識をもとにテーマを決め、それにふさわしい場所を探すこともあれば、“場”に触発されてテーマを決めることもあるそうです。最後に、私自身が佐藤卓氏の講演会に行った際に聞いた「ロッテ - ミントガムシリーズ」の裏話をお話しましょう。
ロッテは1993(平成5)年、23年ぶりに板ガムを全面的にリニューアル決意。
この時コンペで採用されたのが、グラフィックデザインをはじめ多彩な分野で活躍する佐藤卓氏によるデザイン案でした。元々のパッケージは、全ての面が同じデザインでした。
しかし、現場に足を運ぶ佐藤卓氏は、コンビニで売られている際は、お客様からは2面が見えると気づきます。そこで、伝統的なベースカラーを踏襲しながらも、製品の2面にロゴタイプと絵柄(グリーンガムは木、クールミントガムはペンギン)を振り分けるというまったく新しい見せ方を提案した。細部を見るとずいぶん変わっているのに、全体を見るとどこか昔の製品の印象を漂わせる巧妙なデザインです。
佐藤卓氏デザインによる現在のパッケージは、ベースカラーがメタリック調の明るいものに代わっています。
面白いのは、デザインに様々な遊び心が盛り込まれていること。例えばクールミントの場合、5匹並んだペンギンのうち、右から2匹目だけが左手を挙げている(左写真最下部参照)。
ロッテの広報によると、これはペンギンが、いなくなってしまったクジラに対する感謝の念を表しているのだとか・・・
通常版のパッケージだけでなく、実は期間限定のパッケージがあるのだそうです。コンビニに置いてある1箱の中に1〜2つ紛れ込んでいるのだそう。
しかし、一切宣伝は行っていません。購入した人が見つけた際につい誰かに話したくなるようにわざと宣伝はしないのだとか。人と人をつなぐツールとしての役割をもたせたデザインなのです。
ちなみに現在のグリーンガムは、並んだ木のうち1本が椰子の木だったり、小鳥が木に乗っていたりします。
クールミントガムの場合は写真のものや……他にもあるようですが、買ってみてのお楽しみにしておきましょう。
こういった遊び心をもったところが、個人的に好きなのです。他にもデザインの裏話(明治乳業の明治おいしい牛乳)の裏話が佐藤卓氏のホームページに載っていますので下記のURLよりご覧ください。
インテリアとはまた違った細部へのデザインのこだわりを感じることができますよ。
≪作品例≫
ニッカ - ピュアモルト(商品開発)
ロッテ - ミントガムシリーズ(パッケージデザイン)
ロッテ - キシリトールガム(〃)
大正製薬 - ゼナ(〃)
明治乳業 - 明治おいしい牛乳(〃)
ヱスビー食品 - S&Bスパイスボトル(〃)
BS朝日(VI)
金沢21世紀美術館(〃)
首都大学東京(〃)
三宅一生デザイン文化財団(〃)
NHK教育「にほんごであそぼ」(アートディレクション)
NTTドコモ - P701iD(プロダクトデザイン)
21_21 DESIGN SIGHT(プロダクトロゴ)
-MoMA Design Store(オンラインストア) >>>
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(文:インテリア情報サイト編集部-2 / 更新日:2010.05.29)