建築家・中村好文
「小屋から家へ」講演会レポート
ますにかかったネズミの尻尾を見た夫婦が、「大きい」「小さい」とネズミの大きさを議論していた最中、たまりかねたネズミが、ますのなかから「チュウ」と言いました。
これは、江戸時代の『ますおとし』という小話。会場が笑いの渦に包まれました。
しかし、インテリア情報サイト編集部は、寄席を見に行ったのではありません。4月25日(木)に建築会館で開催された建築家・中村好文さんの講演会「小屋から家へ」に行ってきました。中村さんのユーモア溢れる温かい人柄のおかげで、会場は終始和やかな雰囲気でした。
-レミングハウス-
中村さんの事務所の名前は「レミングハウス」。レミングというのはネズミのことで、自分の巣を嘗め回すらしいです。「やりきらないとすまない」性分の中村さんは、この「レミング」が自分にピッタリだと考えて名づけました。
-家と暮らし-
中村さんは、住宅を「日々の暮らしを盛り付けるための器」だと考えています。建築家は、うわべの綺麗さを求めがちですが、住宅はそこに住む人の暮らしがあってはじめて意味を持つものです。ただ綺麗なだけの器ではなく、料理を盛り付けたとたんに映える器がある。住宅と暮らしもそのような関係であるべきだと考えています。
-六つ子の魂、六十まで-
今年で65歳になられる中村さんが、はじめて「自分だけの居場所」をつくったのは、6歳の時。実家にあったミシン台に新聞紙を使って空間を作りました。そこでラジオを聴いたり、とにかく、この空間で何かをするのが、とても好きでした。この時の気持ちを、今もなお持ち続けています。
-魅了された小屋-
旅行好きでもある中村さんは、国内にとどまらず、世界各国の小屋を訪ねて歩きました。アメリカにあるヘンリー・ディヴィット・ソローの小屋や、南フランスの東端にあるル・コルビジェの小屋などを訪れては、そこにあった暮らしに思いを馳せました。最近では、兵庫県の西宮からサンフランシスコまでの単独航海に成功した堀江健一さんの小型ヨット「マーメイド号」を見るために渡米しました。ヨットの中をなめまわすようにじっくり見た後は、堀江さんが撮られたのと同じアングルで写真を撮りました。会場にその様子が映し出された時の中村さんの表情が、いつになく満足気で、そしてとても幸せそうだったのが印象的です。
-Hanem Hut-
現在、六本木のTOTOギャラリー・間で開催されている中村好文さんの展覧会『小屋においでよ!』のメイン展示である小屋「Hanem Hut」ができるまでの紹介がありました。この「Hanem Hut」は、電線・電話線・水道管・ガス管などの「線」と「管」につながれていない省エネルギー・省資源型で環境負荷の極端に少ないつくりになっています。編集部は、講演会に先立って展覧会に行きました。そこには、住む人に寄り添って住宅を作り続けてきた中村さんだからこそ出せる独特のあたたかみがあるように感じました。
満員御礼のなか、あっという間の2時間でした。最後に、参加者から「これからの野望は何ですか?」と聞かれた中村さんは、「僕にはもともと野望というものはありません。ただ、いま一番やりたいことは、展示が終わった後の「Hanem Hut」を海辺に移して、この小屋での生活を実体験したい」とおっしゃっていました。
この願いが実現する日は遠くないかもしれません。
(文:制作_インテリア情報サイト編集部-1 / 更新日:2013.05.05)