【取材・レポート】「TOKYO MIDTOWN AWARD 2019」結果発表


東京ミッドタウンのプラザB1オープンスペースにて受賞者と審査員の方々

 

 

【取材・レポート】
才能あるデザイナーやアーティストの発掘・支援・コラボレーションを目指した
デザインとアートのコンペティション
「TOKYO MIDTOWN AWARD 2019」結果発表

 

 

 

去る10月18日(金)に、デザインとアートのコンペティション「TOKYO MIDTOWN AWARD 2019」の受賞・入選の作品の発表と授賞式が東京ミッドタウンで開催されました。その様子と受賞作品をご紹介します。
 

東京ミッドタウンは、“「JAPAN VALUE(新しい日本の価値・感性・才能)」を創造・結集し、世界に発信し続ける街”をコンセプトに掲げており、その一つのアクションとして、才能ある若手(39歳以下)デザイナーやアーティストとの出会い、支援、コラボレーションを目指したデザインとアートの2部門のコンペティションを開催しています。

計1,278点の応募作品の中からグランプリなど全16点の受賞・入選の受賞作品を決定。全16作品は、10月18日(金)から11月10日(日)まで、東京ミッドタウンのプラザB1オープンスペースにて展示しています。

 

デザインとアートのコンペティション グランプリは以下の方々が受賞で、賞金100万円を手にされました。

 

■ デザインコンペ グランプリ

デザインコンペ グランプリ
《すべてティッシュでできたティッシュペーパー》
河合航路さん、南 和宏さん、西川佳織さん

 

 

■ アートコンペ グランプリ

アートコンペ グランプリ
《made in ground》
井原宏蕗さん

 

 


毎年デザインが変わるオリジナルのトロフィー

 

2019.10.18 インテリア情報サイト編集部 撮影

 

 

 

| 受賞作品一覧 紹介

 

・TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 <デザインコンペ> 受賞作品一覧

■グランプリ(1点)

 作品名:《すべてティッシュでできたティッシュペーパー》
 受賞者:河合航路、南 和宏、西川佳織

 <作品コンセプト>
199組のティッシュペーパーと1枚の少し厚手のティッシュペーパーでできています。最後の1枚はボックスの内側をティッシュとして使います。ムダはひとつもありません。サステナブルであり、機能を追求した真っ白な外観は、インテリアとしての美しさも兼ね備えています。このプロダクトを通して、たった1枚の紙を大切に想う気持ちを伝えたいです。これがティッシュペーパーの「THE NEXT STANDARD」です。

 

 

 

■優秀賞(3点)


 入選作:《sorou》
 入選者:高橋琴子

 <作品コンセプト>
 形が完成した時に、柄が「揃う」折り紙です。従来の折り紙は折る前の平面の状態で柄が完成され、形が完成し立体になった時に柄の見え方が変わります。この在り方が普通とされていますが、果たして立体になった時の柄の見え方は美しいのかと疑問を持ちました。立体になった時に柄が綺麗に見える折り紙があってもよいのではないかと考えsorouを制作しました。sorouは見える柄に焦点をあてた折り紙です。

 

 

 

 

入選作:《おみくず》
入選者:YK (吉田隆大、北浦 俊)

 <作品コンセプト>
 毎日使うペットボトルが、毎日を占うおみくじに。占い結果は、時に会話のきっかけに・時に背中を押してくれる存在になり、日常をささやかに彩ります。でも実は、運勢をつい知りたくなる本能をくすぐられラベルを剥がす度、いつのまにかプラスチックくずを分別していたり。いつの時代も「やらなきゃ」より「ついやってしまう」が新たなスタンダードをつくってきました。楽しく占い、ちゃっかりエコな、一石二鳥なラベルです。

 

 

入選作:《LINKAGE》
 入選者:MAGNET
(高橋鴻介、和田夏実、中山桃歌)

 <作品コンセプト>
 遊びは人をつなぐもの。だとしたら、一緒に遊べるということが、今まで隔てられていた人たちをつなぐきっかけになるのでは?目が見えず、耳が聞こえない盲ろうの方々が、触ることで会話する「触手話」から遊びのNEXT STANDARDを考えてみたら、すべての人が共有できる新しいゲーム「LINKAGE」が生まれました。これからの遊びがそんな思想で作られたら、きっと今までより優しい世界が広がるはずです。

 

 

 

■ファイナリスト(6点)


 【写真上段左】
 入選作:《逆から履歴書》
 入選者:nyokki (三谷 悠、八幡佑希、柿木大輔)

 【写真上段中央】
 入選作:《Japanese Pay》
 入選者:NEWPLAIN
(守本悠一郎、越出つばさ、小林優也、有村大治郎)

 【写真上段右】
 入選作:《お年玉カード》
 入選者:槇野 結、渡辺 光

 【写真下段左】
 入選作:《継木鉛筆》
 入選者:比護拓郎

 【写真下段中央】
 入選作:《アイコンブリスター》
 入選者:鳥山翔太、柳澤 駿

 【写真下段右】
 入選作:《白い電線》
 入選者:伊藤かをり、大村龍也
 


•TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 <デザインコンペ>審査員総評

全体総評
デザインコンペでは、「THE NEXT STANDARD」をテーマに作品を募集し、1,016作品の応募がありました。今回の応募数は前回とほぼ同じですが、コンペとしての着実な成長を実感しています。全体を見渡すと、テーマの解釈と解決の表現がさらに巧みになった印象を持ちました。意欲的なテーマでしたが、応募者の皆様に高いレベルでお応えいただきました。コンペの目指す新たなビジョンが浸透した結果でしょう。また、社会インフラや仕組みという観点での提案が多かったことは、これまでにない特徴でした。
 

石上純也(建築家)
今回はTHE NEXT STANDARDというテーマに沿って、とてもクオリティの高い作品が集まったように思う。スタンダードという生活に浸透していく価値観についてそれらを刷新しようとする様々な提案を楽しく拝見した。特にグランプリと優秀賞に選ばれた作品に関しては、今の時代が求める生活のあり方とうまく一致していたように思う。そういう意味でも、単なる形状のデザインを超えて、多くのことを僕としても感じ取ることができたと思う。


伊藤直樹(クリエイティブディレクター)
1次審査をして、審査員全員で話し合い、そして各作品にフィードバックする。2次審査では、プレゼンしてもらって実際のモックアップに触れられる。各作品の成長を目の当たりにして、とても手応えのある審査でした。今年は、実現まで見届けたい作品にたくさん出会えました。受賞したみなさん、おめでとうございます。

 

えぐちりか(アーティスト/アートディレクター)
考え方の提案にとどまらず、本当に社会で機能するアイデアを見つけたいと思っていたので、いい作品が受賞したと思っています。受賞した作品を振り返ると、1次審査から2次審査と進んでいく中で、審査員からのリクエストを踏まえて総合的に考え抜かれているものでした。グランプリと優秀賞の差は僅差ではありましたが、このまま世の中に出せそうな実現性が最後に勝敗を分けたように思います。

 

川村元気(映画プロデューサー/小説家)
今回の受賞作から「次のスタンダード」となるようなデザインが生まれると確信しています。そう思えるほど、高いレベルの受賞作を選べました。今回受賞作となったものは、書類審査から2次に向けてきちんと改良がなされたものが多かったように思います。良いアイデアを多くの人に届くようにブラッシュアップする能力が高い今回の受賞者の方々から、後世に残るプロダクツが生まれることを楽しみにしています。


中村勇吾(インターフェースデザイナー)
とても面白かったです。おそらく「THE NEXT STANDARD」というハードル高めのお題がちょうど良かったのではないでしょうか。来年もう一度同じテーマを掘り下げるのもいいのでは?と思ったぐらいです。また、お題の中には含まれていないにも関わらず、上位作品には共通して「日本」という要素が滲み出ていたのが印象的でした。実際に世の中に定着してほしいと素直に思えるものばかりで、そうなることを願っています。

 

 

 

•TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 <アートコンペ> 受賞作品一覧

■グランプリ(1点)

作品名:《made in ground》
 受賞者:井原宏蕗

 <作品コンセプト>
ミミズが排泄する糞塚は、土であり、排泄物であり、生き物がいた痕跡である。私はそんな糞塚をミミズが作った彫刻と捉え、それらをそのままの形で、窯で焼成し陶にするプロジェクトを行なっている。華やかな六本木という街で「糞」は排泄物として嫌われるが、それらは循環の一部であり、生きた証である。縁の下の力持ちであるミミズが地下で造った糞塚を、六本木の地下の会場で展示することで、私たちの未来について考えたい。

 

 

 

■準グランプリ(1点)


作品名:《イカトカイ》
 受賞者:宮内裕賀

 <作品コンセプト>
 東京の時の流れは速い。人間性を殺していかないと生活できない如何ともしがたい社会。みんな、スルメや熨斗イカになっていないか。ネオンの瞬きはいかにも目まぐるしく体色変化するイカの表皮の色素胞のよう。星のない夜空はイカ墨。都会の美しいイカに気づいてもらいたい。そしてイカが生きる海と、地球と宇宙を思い出していかなるときも自分を大切にしてほしい。いかほどの人間と世界を尊重できるか。イカに生かされよう。

 

 

 

■優秀賞(4点)


 入選作:《貝殻の舟-神奈川沖浪裏》
 入選者:杉原信幸×中村綾花

 <作品コンセプト>
 貝殻は貝の生きた痕跡であり、波の形の跡のようです。貝殻を繋いで舟をつくる行為は、土器の欠片を貼りあわせて、古代の土器を蘇らすような行為です。それは海の魂の器が集まって生まれた鎮魂の舟のようです。震災の津波の後から、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」がとても気になり、波のような貝殻の舟が「神奈川沖浪裏」の大波のようになりました。東京ミッドタウンの人の流れと水に包まれるような建築から大波の舟が生まれます。

 

 


 入選作:《人工知能による顔の識別》
 入選者:古屋崇久

 <作品コンセプト>
 街の似顔絵屋のように粘土を使って即興で鑑賞者の首像を作るパフォーマンス。完成された首像は積み重ねられ様々な方が来たことを表す。日々街ですれ違う他者の顔はどれほどの精度を持って私たちの記憶に残っているのだろうか?これからの人工知能の発展と機械化の精密なプロダクトは、私たちの記憶を鮮明にする。

 

 


入選作:《躍っていたいだけ》
入選者:古屋真美

 <作品コンセプト>
 生活のなかに感じる歓びや痛みを、衣服は内包している。どこかにしまいこんでしまった衣服を、ひっぱりだしてみる。あるいは、運命の1着との出会いを信じて、外に出かけてみる。そのときめきや切なさを、私はずっと体験していたい。違和感だらけのこの身体で、それでも何かに期待していたい。それらを版画で表現し、個人の所有から遠ざける。この作品が風に揺れたとき、人々は、他者の存在を意識し、自分の存在を確かめる。

 

 


入選作:《Metaphorical site》
 入選者:盛 圭太

 <作品コンセプト>
ここはコスモポリタンな場だ。 現代の多様性が具体化した場所は、現地制作される作品に応答するだろう。下書きのないまま描かれる糸のドローイングは、作品を享受する多様な『個』によって自由に解釈され、 無数の様相をもつ東京ミッドタウンの比喩的なサイト(光景)となる。不可視な多様性の総体が作品そのものであるように。東京ミッドタウンという”場”そのものであるように。


•TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 <アートコンペ>審査員総評

全体総評
アートコンペでは、テーマは「応募者が自由に設定」とし、東京ミッドタウンを代表するパブリックスペースであるプラザB1を舞台に、場所を活かしたサイトスペシフィックな作品を募集し、総計262作品の応募がありました。 最終的に上位に残ったのは、東京ミッドタウンという場の特性を活かしながら、それぞれの作家性を強く感じさせられる作品でした。今年度の傾向としては、絵画作品が最も多く、その次に立体、インスタレーションが続く形となりました。関東圏からの応募が多い状況が続いていますが、前回から増加傾向にあった他地域や海外からの応募作品も、存在感を増してきています。更に、今年度は、自然と人間の関係に対して鋭い目を向ける作品が多く、応募作品から、東京ミッドタウンという場所が持つ特性が新たに見出される場面もありました。各審査の過程で、作品や作家の熱量に触発された審査員たちによって活発な議論が交わされ、6作品の受賞作を決定いたしました。
 

大巻伸嗣(アーティスト)
若手の作家たちが、大きな発表の機会を得て、どれだけ自分を客観的に見つめ成長できるかがはっきりと示された展示になったと思います。公共スペースでの展示の意味や難しさを実感した展示ができているのも良かったと思います。グランプリ・準グランプリの2人の作品は、「自分」という生命も含めた人間と自然との関わりを見据え、その表現が空間の中で実現されていました。惜しくも優秀賞となった4組も、それぞれに次のステップを踏めるのではないかと思います。
 

金島隆弘(アートプロデューサー/芸術学研究員)
 今回のアワードでは、東京ミッドタウンという多くの人工物が目の前に立ちはだかる都市の真ん中が舞台にも関わらず、生命の生々しさや、人間らしさを感じさせる作品が多く、「これからどう生きるか」を問い、向き合うべき課題や、生命そのものに対峙する姿勢を作家や作品から感じました。そのような表現に大きく作用する制限や制約に、ミッドタウンがどう柔軟に応えられるかも、これからの創造性への更なる寄与という観点では大切かもしれません。
 

川上典李子(ジャーナリスト/21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター)
 受賞した6組は、普段は目にできない世界や意識されにくい状況をとらえ、驚きとともに問題意識を刺激する作品を完成させてくれました。「人間だけが地球に生きているのではないこと」を思考することの重要性が挙げられるなか、広い視野と深く掘り下げた考えを持ち、東京ミッドタウンを訪れる方々に強いメッセージを発する作品の選出となったと思います。「人」にもフォーカスするアワードらしい結果ともなりました。皆さんの今後の挑戦にも期待しています。
 

クワクボリョウタ
(アーティスト/情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 准教授/多摩美術大学情報デザイン学科非常勤講師)

 最終審査まで残った皆さんが限られた時間の中、想像以上のアイディアを予想以上の完成度で実現されていた点にまず尊敬の言葉を申しあげたいと思います。美術館と異なり、通り過ぎる人が多い商業空間の中で、目を惹きつけ楽しませつつも、クリティカルな面を持つ作品が選ばれ、非常に良かったと感じます。作品が、通り過ぎる人々の脳裏に焼き付き生活の中に紛れ込んでいく、アートならではの体験が実現されることを期待しています。
 

鈴木康広
 (アーティスト/武蔵野美術大学准教授/東京大学先端科学技術研究センター客員研究員)

 作家という立場で審査に参加し、自分よりも若いクリエイターがいまどのように考え、何を見ようとしているのかが感じられて新鮮でした。作品をコンペや公共空間に持ち込むのは、傷ついて壊れてしまう危険性を孕みながら、そこに挑戦するクリエイターたちの姿にも刺激を受けました。科学技術やデザインに求められる問題を解決するための機能性や利便性ではなく、「なぜ人はそこに惹かれるのか」という、答えのない疑問からはじまる、アートの世界との向き合い方に僕自身も底知れぬ魅力を感じています。

 


本アワードでは各年度ごとにオリジナルのトロフィーが制作されます。

今年はデザインコンペの審査員 伊藤直樹氏がデザイン、制作したオリジナルの作品です。

 〈伊藤直樹氏コメント〉
あなたの脳もあなたの作品だと思います。

このトロフィーは人間の脳をサボテンの盆栽に見立てたものです。今回デザインした脳幹は、「表現したい」という強い衝動や欲望を制御しているそうです。高価で良いとされるサボテンは、かなりの長い年月が経っているそうで、受賞者の皆さんの「デザイン脳」と「アート脳」も、これまでの生き方によって形作られた作品だと思います。トロフィーの制作にあたっては、サボテンを植物屋の叢さんに鉢合わせをしていただき、東京大学の脳神経外科に精密な脳の3Dデータをご提供いただきました。これからもその素晴らしい才“脳”に太陽の光を浴びせて、たっぷりと水をあげてください。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

「TOKYO MIDTOWN AWARD 2019」のデザインコンペのテーマは

THE NEXT STANDARD

10年前には考えれなかったものが、今では「あたりまえ」やスタンダード」になっているものがたくさんあります。特にデザイン部門では製品化できそうな作品が集まっており、近い将来、ティッシュボックスはなくなって、ペットボトルのおみくじを引くために分別ゴミ崇拝者が増えてくるのではないでしょうか。

SDGs(持続可能な開発目標)、エシカル、Upcycle、使い捨てプラスチックの禁止など、いま、くらしをとりまく環境への意識の変化が求められています。今回の受賞された作品が、近い未来で「あたりまえ」や「スタンダード」になるように、未来のくらしをとりまく環境への意識が、それをやることが「あたりまえ」や「スタンダード」に変わっていてほしいと願います。

 

 

「TOKYO MIDTOWN AWARD」HP
https://www.tokyo-midtown.com/jp/award/

 

 

 

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(文:制作_インテリア情報サイト編集部-3  /  更新日:2019.10.24)

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