21_21 DESIGN SIGHT
企画展「トランスレーションズ展 - 『わかりあえなさ』をわかりあおう」 開催
21_21 DESIGN SIGHTでは2020年10月16日~2021年6月13日(日)まで、「トランスレーションズ展 - 『わかりあえなさ』をわかりあおう」を開催します。
※本展は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、2021年4月25日 - 6月1日(火)の間、休館いたします。なお、状況により休館を延長させていただくこともございます。最新情報は当ウェブサイトでお知らせいたします。
展覧会ディレクターには、アートやデザインの領域をまたぎ、様々な表現媒体に携わる情報学研究者のドミニク・チェンを迎えます。わかりあえないはずの存在同士が意思疎通を図るため、コミュニケーションを支えるのが「翻訳」のプロセス。この展覧会では、「翻訳=トランスレーション」と呼ばれる行為をある種の「コミュニケーションのデザイン」とみなして、普段から何気なく使っている言葉の不思議さ、そしてそこから生まれる「解釈」や「誤解」の面白さを実感できる空間をつくり、互いの「わかりあえなさ」を受け容れあう可能性を提示していきます。
なお、本展は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、当初の会期を変更しての開催となります。感染拡大の防止対策を行ったうえで、皆様と豊かな交流ができるよう鋭意制作を進めております。ぜひご期待ください。
「トランスレーションズ展.『わかりあえなさ』をわかりあおう」
http://www.2121designsight.jp/program/translations/
*会期、開館時間、入場方法は、状況により変更となる可能性があります。詳細は上記ウェブサイトをご覧ください。
■展覧会ディレクタードミニク・チェンからのメッセージ
翻訳とは通常、ある言語で書かれたり話されたりする言葉を、別の言語に変換することを指しています。しかし、一つの言語で言葉を発するプロセスそれ自体も、一種の翻訳行為とみなすことができます。
アメリカのSF作家であり、自身の作品執筆に加えて、中国語で書かれたSF作品の英語翻訳も精力的に行っているケン・リュウは、「あらゆるコミュニケーション行為は、翻訳の奇跡だ」と書いています*1。わたしたちは、ただ生きて、呼吸をしているだけの時でも、周りの世界から様々な色や形、香りや手触りといった膨大な量の情報が体に流れ込んできます。それらが無数の神経細胞を走り、身体感覚が感情に転化され、「なんて気持ちの良い日なんだろう」とか、「ああ、悲しい朝だなぁ」などという言葉がひとりでに口から出てきたりします。この時、わたしたちは目の前に広がる真っ青な空の色や、肌寒い冬の空気の冷たさといった、自分を取り巻く世界そのものの在り方を翻訳していると言えるでしょう。
このような翻訳を行う時、誰しもが少なからず「うまく言い表せない」もどかしさを感じます。わたしたちは常に、精一杯の語彙や身体表現を用いて、沸き起こる様々な感情をなんとか他者に伝えようとしますが、そもそも自分でも完璧にその感情を翻訳しきれることはないのです。
コンピュータが精確にデジタルデータを複製したり転送したりするようには、わたしたちは情報を伝えることはできません。わたしたちのコミュニケーションには、根源的な「わかりあえなさ」が横たわっています。それでも、わたしたちは互いの「言葉にできなさ」をわかりあうことはできます。別の言い方をすれば、わたしたちがどのように自分の感覚を翻訳しようとしているのか、という過程についてもっと知ることができれば、「わかりあえなさをわかりあう」ことができるでしょう。
人は幸いにして、表現のしづらさをバネにし、新たな「言葉」をつくり出すことで、それまでできなかったような翻訳を行えるようになります。この展覧会では「翻訳」を、わかりあえないはずの他者同士が意思疎通を図るためのプロセスと捉えて、普段から何気なく使っている言葉の不思議さや、「誤解」や「誤訳」によってコミュニケーションからこぼれ落ちる意味の面白さを実感できるような、「多種多様な翻訳の技法のワンダーランド」をつくろうとしました。
現在、世界中に7,000を超える言語が存在していると言われています。ひとつの言語が「全ての言語の海」を漂っているのだと実感できれば、日常で使う言葉に対して新しい感覚が生まれるでしょう。また、異なる文化の中で生み出された、他の言語への翻訳が困難な言葉について知ることで、わたしたちの感性はより多様になります。そこから、文字以外の言語の世界へも飛び込んでみましょう。身振り手振りを使い、瞬時にして風景をその場に描き出す手話は、耳が聞こえる人の表現をも豊かにしてくれます。言葉にしづらい感覚を、その場で絵にしてくれるグラフィック・レコーディングによって、わかりあえなさを越えた共感が生み出されます。また、古代の人々がつくり上げた文化に、現代人が新たな解釈を与えて新しい息吹を与える行為も、時を越えた翻訳行為とみなせるでしょう。そして、人同士のコミュニケーションにとどまらず、微生物や植物、動物、そして無機物と対話しようとする営みの数々もまた、「翻訳」の射程を押し広げます。
この展示を体験し終えた後、あなたの中ではどのような翻訳の可能性が芽吹くでしょうか。この世界に存在するありとあらゆる事物と心を通わせるための、未だ見ぬ言語を想像していただければ幸いです。
*1 Ken Liu, The Paper Menagerie and Other Stories, Preface, Head of Zeus, 2016
プロフィール
写真:望月 孝
ドミニク・チェン Dominique Chen
博士(学際情報学)。使う言語は日・仏・英。日本、台湾、ベトナムの血を引くフランス国籍。幼少時には50カ国以上から生徒が集まるインターナショナルスクールに通い、日々「翻訳」を体感して過ごす。現在は早稲田大学文化構想学部・准教授。2016~2018年度グッドデザイン賞の審査員・フォーカスイシューディレクター・ユニットリーダーを務める。XXII La Triennale Milano『Broken Nature』展(2019.3.1〜9.1)でぬか床ロボット『NukaBot』、あいちトリエンナーレ2019『情の時代』展(2019.8.1〜10.1)では人々の遺言の執筆プロセスを可視化する『Last Words/TypeTrace』を出展。主な著書に、『未来をつくる言葉:わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)、『電脳のレリギオ:ビッグデータ社会で心をつくる』(NTT出版)、『インターネットを生命化する:プロクロニズムの思想と実践』(青土社)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック:クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)等。共著に『情報環世界:身体とAIの間であそぶガイドブック』(NTT出版)、『謎床:思考が発酵する編集術』(晶文社)等。訳書に『ウェルビーイングの設計論:人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社)、『シンギュラリティ:人工知能から超知能まで』(NTT出版)等。
■ドミニク・チェン特別寄稿「わかりあえなさをつなぐこと」
本展オープンに先駆け、ドミニク・チェンが自身の半生と翻訳について語ります。 8月に、当館ウェブサイ「DOCUMENTS」にて公開予定です。ぜひご一読ください。
http://www.2121designsight.jp/documents/
| 展示内容一部紹介
■ ことばの宇宙 異なることばをひとつに混ぜる
ペイイン・リン「言葉にならないもの ―第 4章:個人的な言語」
複数の言語が話される家庭や環境では、意思疎通において、言語が混ざり合う。そうして生成された言語を「クレオール」と呼ぶ。本映像作品では、クレオールを用いる人々が、自らの物語を紡ぎ、語る様子を紹介する。
■ 可能性を拡げる カメラで文字を聴く
島影圭佑「OTON GLASS」
視覚障がい者のために、文字を代わりに読み上げるメガネ。
■ 可能性を拡げる 振動で音を聴く
本多達也「 Ontenna(オンテナ)」
聴覚障がい者・ろう者と協働で開発された、音の特徴を振動と光によって身体に伝えるインタフェース。
■ 手と体で伝える スポーツを遊びに変える
伊藤亜紗(東京工業大学)+林 阿希子( NTTサービスエボリューション研究所)+渡邊淳司(N TTコミュニケーション科学基礎研究所)「見えないスポーツ図鑑」
プロアスリートの感覚を誰でも追体験できるよう、日用品を使った動作に翻訳するプロジェクト。画像は手ぬぐいを用いた柔道観戦体験の様子。
■ 手と体で伝える 手で世界を描く
和田夏実「Visual Creole」
想像を手の動きであらわして見せる視覚言語としての手話の世界を、鑑賞者とともに探る映像作品。
■ 文化の多様性 料理の言葉を考える
永田康祐「Translation Zone」
言語と食文化の類似に着目し、それぞれにおける文化的混交や摩擦を、翻訳という観点から考察する映像作品。
■ 異種とのコミュニケーション 異なる動物と愛し合う
長谷川 愛「Human X Shark」
「サメを性的に魅惑する香水」の制作を通して、分子レベルでの異種間コミュニケーションについて考えるリサーチプロジェクト。
■ 異種とのコミュニケーション 見えない生き物と話す
Fement Media Research「NukaBot v3」
ぬか床の中に棲む無数の微生物たちの発酵具合を音声に翻訳するロボット。
■ 可能性を拡げる 心の内側をひらく
(参考)清水淳子「トランスレーションズ展プレイベントのグラフィック・レコーディング」 (2020年1月15日)
展覧会ディレクター ドミニク・チェン、企画協力 塚田有那によるスペシャルトークの様子を、本展参加作家 清水淳子がグラフィックレコーディングでまとめた。同イベントのレポートは、8月に当館ウェブサイト「 DOCUMENTS」にて公開予定。
【開催概要】
会期:2020年10月16日(金) ~2021年6月13日(日)
* 、2021年4月25日 - 5月11日の間、休館いたします
休館日火曜日(11月3日、2月23日は開館)、年末年始(12月 26日~1月3日)
開館時間 10:00ー19:00(入場は18 :30まで)
入館料:一般 1,200円、大学生 800円、高校生 500円、中学生以下無料
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー 1&2
東京都港区赤坂 9 -7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
tel. 03-3475-2121
アクセス都営地下鉄大江戸線「六本木」駅 東京メトロ日比谷線「六本木」駅
東京メトロ千代田線「乃木坂」駅より徒歩 5分
主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁
助成:オランダ王国大使館
特別協賛:三井不動産株式会社
協力:大日本印刷株式会社
展覧会ディレクター:ドミニク・チェン
企画協:塚田有那
会場構成: noiz
グラフィックデザイン:祖父江 慎+ cozfish
参加作家:
市原えつこ、伊藤亜紗(東京工業大学)+林 阿希子(N T Tサービスエボリューション研究所)+渡邊淳司(N T Tコミュニケーション科学基礎研究所)、 Goog le Creative L ab、エラ・フランシス・サンダース、島影圭佑、清水淳子+鈴木悠平、Takram、長岡造形大学、永田康祐、 noiz、長谷川 愛、シュペラ・ピートリッチ、Ferment Media Research、タニア&ケン・フィンレイソン+ Google Gboard team、本多達也、やんツー、ペイイン・リン、ティム・ローマス+萩原俊矢、和田夏実
21_21 DESIGN SIGHTディレクター:三宅一生、佐藤卓、深澤直人
アソシエイトディレクター:川上典李子
プログラム・ オフィサー:西田麻海江
21_21 DESIGN SIGHT
東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
TEL:03-3475-2121
http://www.2121designsight.jp/
(文:21_21 DESIGN SIGHT / 更新日:2020.08.01)