【フォト・レポート】企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」

 

 

【フォト・レポート】
21_21 DESIGN SIGHT
企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」

2024年3月29日~8月12日

 

複合施設「東京ミッドタウン」内にあるデザイン施設21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)では、2024年3月29日~8月12日まで企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」を開催。

 

展覧会ディレクターに幅広い工業製品のデザインや、先端技術を具現化するプロトタイプの研究を行うデザインエンジニアの山中俊治氏を迎え、専門領域が異なる 7組のデザイナー・クリエイターと科学者・技術者のコラボレーションによる多彩な作品が展示されていました。

最先端技術や研究における先駆的な眼差しとデザインが出合うことで芽生えた未来のかけらたちを、一部ですがフォト・レポートで紹介していきます。


展覧会ウェブサイト: https://www.2121designsight.jp/program/future_elements/

 


山中俊治 Shunji Yamanaka

1957年生まれ。東京大学工学部卒業後、日産自動車のカーデザイナーを経て1991-94年東京大学特任准教授。1994年にリーディング・エッジ・デザインを設立。デザイナーとして腕時計から家電、家具、鉄道車両に至る幅広い製品をデザインする一方、科学者と共同でロボットビークルや3Dプリンタ製アスリート用義足など先進的なプロトタイプを開発してきた。 Suicaをはじめ日本全国のICカード改札機の共通UIをデザインしたことでも知られる。2008年より慶應義塾大学教授、2013年東京大学教授。2023年には東京大学特別教授の称号を授与された。ニューヨーク近代美術館永久所蔵品選定、グッドデザイン賞金賞、毎日デザイン賞、iF、Red Dotなど受賞多数。

 

 

<ロビー>

山中俊治+田川欣哉・本間淳


「Cyclops & tagtype」 Photo:@interior-joho.com 会場風景

 

 

nomena+郡司芽久
自分の手で組み立てて動かす、動物の関節に注目した骨格模型を展示。模型の骨を動かしているうちに、ヒトである自分自身の関節もまた、同じように動いていることに気づきます。


nomena+郡司芽久「関節する」 Photo:@interior-joho.com 会場風景

エンジニアの集団nomenaと解剖学者の郡司芽久氏と協働で制作した「関節する」という作品の展示です。

近年では、宇宙航空研究開発機構JAXAなど研究機関との共同研究、東京2020オリンピックにおける聖火台の機構設計など、普段は機械部品を使って動きを作り出すnomenaが、解剖学・形態学が専門の郡司氏との研究や共同制作で骨や体の動きの美しさ・緻密さに魅了され、その動きのかたちや仕組みに注目した作品です。

 

 

<ギャラリー1 入り口> <ギャラリー1>

▼ 千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)+山中俊治

展示作品:「morph3」「Hallucigenia 01」「Halluc IIχ」「CanguRo」「RULO」
インスタレーション:「ON THE FLY」「Wonder Robot Projection」


「morph3」 Photo:@interior-joho.com 会場風景

モーターやケーブルをケースで覆って隠してしまうのではなく、骨格構造から美しいロボットをつくるというコンセプトに基づきデザインされたロボットを、スケッチや図面とともに展示。普段は人に寄り添うパートナーなのに、用途で変化する未来ロボットを研究するチームのプロトが展示されていました。


「Halluc IIχ」 Photo:@interior-joho.com 会場風景

8本の脚・車輪(56個のモータ)を駆使し、状況に応じて、ビークルモード(車両)、インセクトモード(昆虫)、アニマルモード(動物)の3つの形態に変形するHalluc II(ハルク ツー)は、未来の乗り物を1/5スケールで作ったコンセプトモデル。これにより、車輪による効率的な速い移動や、凸凹道でも歩いて進む柔軟な移動ができます。また真横や斜めなどあらゆる方向に進むこともできます。

Halluc IIχ(ハルク ツーカイ)は、最新モデルで駆動力や移動速度、周囲の障害物や人間を検知する能力などの基本性能のほか、操作性やメンテナンス性が格段に上がり、ジェスチャー認識による操作もできるようになりました。

 


「CanguRo」 Photo:@interior-joho.com 会場風景

「CanguRo」は、ショッピング等をサポートしたり、友人・家族とのコミュニケーションもするロボット。遠方にいても、スマートフォンやタブレットPCで呼び出すと、fuRo独自のSLAM技術である「scanSLAM」により、指定の場所まで完全自動操縦機能で迎えに来てくれます。「scanSLAM」は、ドローンやお掃除ロボットなどに利用されており、自分が地図上にどこにいるかの推定(自己位置推定)と周囲環境の把握(環境地図作成)を同時に行う技術です。

 


Photo:@interior-joho.com 会場風景

映像が照射された紙をタッチパネルのように操作できるインスタレーションもあります。



千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)
未来ロボット技術研究センターは、未来のロボットの研究開発、産学連携による新産業の創出、そしてプロダクトデザインの追求の 3つを基本理念としている。これらの実現のために、複数の専門分野を横断するチームづくりを行い、千葉工業大学の支援を受け、学際的な研究組織として設立され、ロボット産業の革新を目指し活動している。

山中俊治
1982年東京大学卒業後、日産自動車のデザイナーを経て1987年に独立。 1994年リーディング・エッジ・デザイン設立。 2008年慶應義塾大学教授、 2013年東京大学教授、 2023年より東京大学特別教授。幅広い工業製品をデザインする一方、プロトタイプの制作と検証を通じて様々な分野の科学技術研究に貢献。グッドデザイン金賞、ニューヨーク MoMA永久所蔵品選定など受賞多数。

 

 

 

<ギャラリー3>


Photo:@interior-joho.com 会場風景

 

▼ A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+ Nature Architects


Photo:@interior-joho.com 会場風景

A-POC ABLE ISSEY MIYAKEによる熱を加えると布が収縮するスチームストレッチ技術と、Nature Architectsが開発したアルゴリズムにより自動で服の折り目を設計する技術の融合によって生まれた全く新しい衣服を展示。

 


Photo:@interior-joho.com 会場風景

 

POC ABLE ISSEY MIYAKE
A-POC ABLE ISSEY M IYAKE」は、つくり手と受け手とのコミュニケーションを広げ、未来を織りなしていくブランド。1998年に発表した A-POCは、服づくりのプロセスを変革し、着る人が参加する新しいデザインのあり方を提案してきた。時代を見つめながら進化を遂げてきたA-POCを、宮前義之率いるエンジニアリングチームがさらにダイナミックに発展させる。一枚の布の上に繰り出すアイデアは多彩に、着る人との接点は多様に。異分野や異業種との新たな出会いから、さまざまな「ABLE」を生み出している。


Nature Architects
Nature Architectsはメタマテリアルを活用した独自の設計技術によって従来製品を超える機能を実現し、既存製造設備で量産性を考慮した設計案を顧客に提供するエンジニアリングサービス会社。自動車、建設、家電、航空宇宙まで幅広い業界の根幹となる高付加価値な部材や製品の設計開発を行なっている。

 

 

 

 

山中研究室+さまざまな分野の研究者たち
山中研究室の研究の始まりにはいつも山中氏のスケッチがあり、それらに導かれて多くのプロトタイプが生まれました。これまで約 15年間の間に、以下の研究者とともに開発してきたプロトタイプの数々が展示されています。

今仙技術研究所・稲見自在化身体プロジェクト・臼井二美男・宇宙航空研究開発機構(JAXA)・岡部 徹・河島則天・斉藤一哉・ SPLINE DESIGN HUB・鉄道弘済会義肢装具サポート

 


山中研究室+斉藤一哉「Ready to Fly」 Photo:@interior-joho.com 会場風景
 


Photo:@interior-joho.com 会場風景


Photo:@interior-joho.com 会場風景


Photo:@interior-joho.com 会場風景
 


山中研究室+新野俊樹+鉄道弘済会義肢装具サポートセンター他「Rami」 Photo:@interior-joho.com 会場風景

 


山中俊治+新野俊樹「構造触感」  Photo:@interior-joho.com 会場風景
 

▼ ロビーにある実際に触ることができるワークショップコーナー


Photo:@interior-joho.com 会場風景
 


Photo:@interior-joho.com 会場風景
 


山中研究室+宇宙航空研究開発機構(JAXA)「emblem」

 


荒牧 悠+舘 知宏 「座屈不安定性スタディ」 Photo:@interior-joho.com 会場風景
 

山中研究室
東京大学生産技術研究所 山中研究室は、2013年4月より、東京大学内のさまざまな研究室や、企業と一緒に、先端技術にかたちを与える研究をしている。人々が実際に体験できるプロトタイプをつくり、技術と社会との接点を生み出す。山中研究室が取り組むデザインは、未来に贈るスケッチでもある。


荒牧 悠+舘 知宏
これまで荒牧はどこにでもあるような素材や部品と戯れながら、それぞれに特有の性質を見出し、作品にしてきました。今回、彼女が見つけたいくつかの要素を舘が観察し、現象の理由を解き明かしながら、ともにその仕組みを面白がることで見出したエッセンスを作品として展示します。

 

荒牧 悠
慶應義塾大学政策メディア研究科修了。多摩美術大学美術学部統合デザイン学科講師。構造や仕組み、人の認知に注目した作品を制作している。つくるオブジェは動いたり動かなかったり、扱う材料も様々。主な参加展覧会に「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」(21_21DESIGN SIGHT, 2016)、個展「荒牧 悠 “こう (する +なる )” ―phenomenal # 02」(nomena gallery Asakusa, 2022)など。

舘 知宏
東京大学大学院総合文化研究科教授。 2005年東京大学工学部建築学科卒業。 2010年同大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2002年から折紙設計をはじめ、Origamizer、Freeform Origamiなどの計算折紙ツールを開発。自然と芸術における形状、機能、製作を探求し、折紙工学、構造形態学、コンピュテーショナル・ファブリケーションなどが専門。東京大学教養学部でSTEAM教育に従事。

 

 

稲見自在化身体プロジェクト+遠藤麻衣子

自在化身体研究をテーマに制作された遠藤麻衣子監督による短編映画『自在』の世界観を展示します。この映画には、研究者が設計・製作した実機が数多く登場します。それらがもたらす未知なる体験をもとに、独自の映像世界がつくられました。


稲見自在化身体プロジェクト「 自在肢」Photo:@interior-joho.com 会場風景


稲見自在化身体プロジェクト
稲見昌彦(東京大学)をはじめとする研究者約100人による研究プロジェクト。人間が物理/バーチャル空間でロボットや人工知能と「人機一体」となり、自己主体感を保ったまま自在に行動することを支援する「自在化身体技術」を研究開発。またそれらが認知、心理、神経機構にもたらす影響の解析も行う。 2017年10月~2023年3月、JST ERATOの同名プロジェクトにて挑戦的な分野融合型基礎研究として推進され、現在も展開中。

遠藤麻衣子
映画監督/アーティスト。ヘルシンキ生まれ、東京育ち。ニューヨークで創作の後、帰国。 2011年日米合作の長編映画『KUICHISAN』で監督デビュー。以後、監督作をロッテルダム映画祭など海外でも公開。 2022年オンライン映画《空》が東京都写真美術館に収蔵。 2023年日仏で取材した短編映画を完成。

 

 

東京大学 DLX Design Lab+東京大学池内与志穂研究室
体外で培養された脳の神経細胞と遠隔で「会話」するインスタレーションの映像とともに、神経細胞との会話を可能にするための培養器のプロトタイプやデザインプロセスを展示。


東京大学DLX Design Lab+東京大学 池内与志穂研究室「Talking with Neurons」
画像:21_21 DESIGN SIGHT広報
 


東京大学DLX Design Lab+東京大学 池内与志穂研究室「Talking with Neurons」
画像:21_21 DESIGN SIGHT広報
 

東京大学 DLX Design Lab
DLX Design Labは東京大学生産技術研究所内に2016年に設立されたユニークなクリエイティブ・スタジオであり、「デザインで価値を創造する」をミッションとしている。その国際的なチームは科学者やエンジニアとの緊密な連携により革新的なアイデア、プロダクト、サービスのプロトタイプを開発している。

東京大学 池内与志穂研究室
池内与志穂研究室は、神経科学や組織工学などを融合した研究を行っている。ヒトのiPS細胞などから神経細胞や組織(オルガノイド)をつくることを通じて、神経系が出来上がる仕組みや、脳が機能するメカニズムなどを理解することを目指している。

 

 

村松 充(Takram)+ Dr.Muramatsu
村松氏は研究者とデザイナーの二役となり、人間の身体に沿うプロダクトの新しいデザイン手法を、システムから開発しました。仮想的な粒子の描く軌跡を立体化した作品とともに、デザインプロセスを体験できるソフトウェアを展示。


村松 充(Takram)+Dr. Muramatsu「場の彫刻」
画像:21_21 DESIGN SIGHT広報

 

村松 充(Takram)
デザインエンジニア 
慶應義塾大学・東京大学にて、ロボットや人間拡張デバイスのデザインなど、先端テクノロジーをベースとしたデザインプロジェクトを実施。国内外で展示発表を行う。2015年「アジアデジタルアート大賞」インタラクティブアート部門大賞、2016年「STARTS Prize」Nomination、2022年「Gold A' Design Award」受賞。2023年よりTakramに参加。

Dr. Muramatsu
リサーチャー、博士(政策・メディア)
慶応義塾大学 政策・メディア研究科修了後、東京大学生産技術研究所 Prototyping & Design Laboratory(山中俊治研究室)特任助教に着任(~2023)。生き物のような認知をもたらすロボットのデザインプロジェクトを中心に、プロトタイピング、デザインエンジニアリングを核に最先端技術の未来を描く、さまざまな研究プロジェクトに従事。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

科学とデザインは近くにいながら、その間には越えがたい溝もある。最先端の科学技術とデザインはすぐそばにありながら、両者は必ずしも同じ道を歩むことはできないと山中氏はいいます。それは科学者たちの本当の関心は真理を探究することで、デザイナーたちの目標は人々の幸福な体験や豊かな社会の実現にあるから。

その言葉の意味を十分に感じ取りながら会場を廻ると、科学者が生み出す新しい知識や技術は、デザインを通じて人々の元へ届けられ、デザイナーたちによって開かれた新しいライフスタイルは、科学者たちの次の研究へとつながり、科学は人類の幸福のためにあるのだということがわかってきます。

たとえば「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」のようにアルゴリズムで、論理的な推論、抽象化、分解による問題解決によって、作業の効率化を計り、ブランド製品として成功しているものもあれば、研究を重ねて科学者の真理探究をしすぎたものやデザイナーの完成美のこだわりで、カタチにならなかったものが多数あるのです。研究とデザインの結果が成果となることは奇跡に近いことなのです。このたゆまない努力がわれわれの生活をささえているのです。

専門領域が異なる7組のデザイナー・クリエイターと科学者・技術者のコラボレーションによる多彩な作品を同時にみることで自然と科学の必要性、科学とデザインが織りなす無数の可能性が多数にあることがわかります。

漠然でも未来を想像することは自由です。さまざまな可能性があるまだ見ぬ未来に思いを馳せながらデザインの楽しさを体感できる会場です。

ご興味のある方は是非足をお運びください。

 

 

【開催概要】
会期:2024年3月29日(金)− 8月12日(月・休)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
休館日:火曜日
主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会
特別協賛:三井不動産株式会社
展覧会ディレクター:山中俊治
企画:野村 緑(fuRo)、村松 充、阪本 真
グラフィックデザイン:岡本 健(岡本健デザイン事務所)
会場構成:萬代基介(萬代基介建築設計事務所)
テキスト/企画協力:角尾 舞
テクニカルディレクション:古田貴之(fuRo)、杉原 寛

ウェブサイト: https://www.2121designsight.jp/program/future_elements/

参加作家:
・荒牧 悠+舘 知宏
・稲見自在化身体プロジェクト+遠藤麻衣子
・A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+Nature Architects
・千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治
・東京大学 DLX Design Lab+東京大学 池内与志穂研究室
・nomena+郡司芽久
・村松 充(Takram)+Dr. Muramatsu
・山中研究室+今仙技術研究所・稲見自在化身体プロジェクト・臼井二美男・宇宙航空研究開発機構(JAXA)・岡部 徹・河島則天・斉藤一哉・SPLINE DESIGN HUB・鉄道弘済会義肢装具サポートセンター・新野俊樹・Manfred Hild・吉川雅博

 

 

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(文:制作_インテリア情報サイト編集部-3  /  更新日:2024.04.26)

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