いくつもの海外の賞を受賞した、「巣鴨信用金庫常盤台支店」。これまでの信用金庫が持つ、“お固い・暗い”などのイメージを払拭する、明るく鮮やか色使いが印象的。施設周辺の雰囲気もガラリと変えてしまいそうな存在感がありながらも、同時に親しみやすさも感じさせます。設計者は、エマニュエル・ムホーさん。東京在住のフランス人建築家・デザイナーです。
巣鴨信用金庫の理事長である田村和久さんは、信用金庫にきめ細かいサービスを展開し内外から注目を集める存在です。そんな田村さんから白羽の矢が立ったムホーさん。最初に依頼を受けた新座支店では、空間、外観、外アプローチ、およびロゴ、サインのデザインを担当しました。「理事長 からのご依頼は『1秒でも長くいたいと思う空間を作ってほしい』というものでした」とムホーさん。新座支店で好評価を受け次に常盤台支店では、建物の設計から全てを任されることになりました。
「巣鴨信用金庫常盤台支店は、住宅街の中にある施設。『これはいったいなに?』と近隣に住むみなさんに関心を持っていただき、自然に建物の中に入っていただき街の中の休憩の場所として利用いただければ」と、ムホーさん。「一般的な金融機関は、大きな看板を前面に出して存在をアピールしますが、ファサード自体を一つの大きい風景としてデザインしました」。
巣鴨信用金庫は、「喜ばれることに喜びを」をモットーに「ホスピタリティバンク」を目指しています。
緊張感のない、リラクッスのできる支店をめざし、東京の中で自然を感じられる空間を目指しました。
「常盤台支店のコンセプトは、色と自然が感じられること。公園と住宅街の近くに位置するこの場所らしい、“leaf(リーフ=葉っぱ)”がコンセプトのモチーフです」。まずインパクトのある外観は、14色のカラフルな窓がリーフに見立てるように配置され、金属パネルにはパンチングを施し、樹木の幹や枝のシルエットをうっすらと見える程度に表現。「様々な角度からの見え方をチェックして窓の奥行き感と色を設計しました。このファサードそのものが看板です」。建物の内側には7つもの中庭を設置。「本物の木々と、擬似的な木々を重ねて、リラックスできる空間を作りました」。また、1階フロアにも14色の椅子を並べ、壁やガラスなどにも14色を使ったカラフルなリーフをあしらうなど、色で溢れる空間を生み出しました。また椅子の並ぶ空間は近隣の方々の憩いの場でもあります。
Photos : Nacasa & Partners
巣鴨信用金庫3つ目の依頼は志村支店の建て替え。カラフルな層がせり出したファサードが目を引き、思わず見上げてしまう外観です。「志村支店の場所は、周りに高いビルが建ち、大きな幹線道路が走りザワザワしてちょっと落ち着かない雰囲気だなと感じました。その場所で唯一“自然”を感じられたのは、空でした」。そこで、ムホーさんはお客さんが自然に上を見上げて空が感じられるような仕掛けを編み出しました。
「天井を丸く切り抜り抜いた吹き抜けを3箇所設け、店舗内でも空の変化が楽しめるようにしました」。周囲にある建物を避け、空しか見えない吹き抜けを作るために、円筒の角度は検討を重ねたそう。そして、“虹のミルフィーユ”とムホーさんご自身が名付けたファサードは、「設計のポイントは、白のバランスです。塗装したアルミパネルのカラフルな色を白い面に映り込ませています」。天井、壁、ガラスにはカラフルなタンポポの綿毛を飾り、ふわりと広がっていく空間を作りました。色そのものを使うことで、空間や街の雰囲気まで変えてしまうムホーさんの設計。
Photo : Nacasa & Partners
ショッピングセンターや駅ビルなどで見かける、ガラス張りのお洒落な料理教室として知られる、「ABCクッキングスタジオ」。2004年から空間デザインを手がけているのもムホーさんです。「当時すでに40店舗を抱える企業で、これからビジネスを成長させていくにあたって、イメージを変えたいというのがご依頼でした。教室っぽくないカフェのような空間を目指し、イエロー、オレンジ、ピンクやグリーンなど鮮やかな色を使って明るくて楽しいスタジオにデザインしました」。小グループ向けのサイズだった作業テーブルを長いタイプに変更。「ヨーロッパの結婚式をイメージして、一つの大きなテーブルをみんなで囲み作業できるようにしました」。「ABCクッキングスタジオ」では、ブランドカラー8色を組み合わせ、色で空間作りをしています。
Photos : Hidehiko Nagaishi / Hideki Tanaka
今や、そのカラーリングを見ただけで“仕事ぶり”が分かる、ムホーさん。フランス出身の彼女がなぜ、ここ東京に事務所を構え、建築や空間デザインを手がけるようになったのでしょうか。次回は、ムホーさんの人物像に迫ります。
エマニュエル・ムホー PROFILE
東京在住フランス人建築家・デザイナー。日本古来のデザインを現代にも活かしたいという想いから、伝統的な間仕切りにヒントを得た色とりどりのパーティションシリーズ「色切/shikiri」を編み出す。その「空間を色で仕切る」というコンセプトから、色を平面的ではなく三次元空間を形作る道具として扱い、建築、インテリアデザイン、プロダクトデザインまで幅広く手掛ける。
東北芸術工科大学准教授、東京建築士会正会員、日本建築学会正会員
東京都千代田区内神田1-14-14-3F
03 3293 0323
contact@emmanuelle.jp
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(文:宮内 有美 / 更新日:2012.04.13)