【コラム】
日本発のミニマムなカプセルホテルは海外でも認知されるのか?
日本では2019年もホテルの建設・開業ラッシュは続いています。そんな中、日本発のカプセルホテルの進化はめざましく2019年8月には九州地区に空港、ターミナル駅に直結の商業施設の地下にオープンする大胆なホテルもあります。
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・成瀬・猪熊建築設計事務所担当でナインアワーズ中洲川端駅」を福岡市博多区下川端町の博多リバレインモール by TAKASHIMAYA B1Fに2019年8月9日(金)九州地区に初めて開業。
カプセルホテルとは日本発の宿泊施設の形態のひとつで、カプセル状(箱形)の簡易ベッドを提供する宿泊施設です。旅館業法では、「簡易宿所」に位置づけられています。
1979年、大阪市梅田に「カプセルホテル・イン大阪」を開業したのが世界初のカプセルホテルで、設計は「中銀カプセルタワービル」を設計した建築家の黒川紀章が担当。コンセプトは「2100年のビジネスホテル」。
ホテルの機能を新しい視点から考えたシンプルでありながらも、大浴場やサウナを併設した日本らしいホテルです。
そのためか数年前までのカプセルホテルのイメージは、サラリーマンが「居酒屋で飲んで終電を逃したから泊まっている」「出張旅費を少しでも安く上げるため」や、「ハチの巣で幼虫になったような気分で泊まるところ」などネガティブなイメージが先行していました。
カプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」の内観
■イメージを変えたカプセルホテルの誕生
そんなイメージを払拭したのが2009年に京都にオープンしたスタイリッシュなカプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」です。
2009年、京都の四条寺町にオープンした「9h(ナインアワーズ)」。“1+7+1”をコンセプトに、1時間のシャワータイムと7時間の睡眠、1時間の身支度というスタイルを宿泊客に提供するホテルです。このユニークなシステムと、カプセルホテルとは思えないスタイリッシュなデザインが話題になり、さまざまな雑誌やWeb媒体に取り上げられました。
「9h」がオープンしたときにまず驚いたのがシンプルなデザイン。サイン、インテリア、アメニティまで、すべてが洗練されたデザインでした。デザインはディレクション及びプロダクトが柴田文江氏、グラフィックとサインは廣村正彰氏、インテリアは中村隆秋氏が担当。
柴田文江氏がデザインを手掛けた繊維強化プラスチック(FRP)製のカプセルユニットは、どのカプセルホテルよりもハチの巣を連想させる幻想的でおしゃれなものでした。「従来のカプセルホテルのような、たくさんの説明書きがあふれている空間にはしたくなかった」という「9h」の意向通り、館内の案内はすべてがスマートなアイコンです。日本随一の観光地、京都で成功し、その後は東京進出。それから日本の建築界を担う若手の建築家たちがデザインチームに加わり、首都圏に次々とオープンします。
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現在、都市部を中心にカプセルホテルは増えており、進化系カプセルホテルも次々にオープンして、全国で約200軒あまりのカプセルホテルが存在します。2020年に開催される東京オリンピックやそのあとの訪日外国人需要を見込んだこの事業はまだまだ増えそうです。
しかし、日本で人気のカプセルホテルですが、一部中東で、空港や大巡礼(ハッジ)時の仮眠用施設として設置の利用はありますが、海外に本格的にオープンしたニュースは入ってきません。
そもそも海外では男性が飲み会や残業で終電を逃すというシチュエーションは少ないので、そんな利用では普及していないのはわかりますが、最近は「9h」のようなスタイリッシュなカプセルホテルに、訪日外国人の利用も多くなってきているので、海外の観光地や都市部にあってもおかしくない施設です。
なぜ、海外でカプセルホテルは見受けられないのでしょうか?
■女性と外国人をターゲットで様変わりしたカプセルホテルの利用客
カプセルホテルはスタイリッシュなデザインに変わったことでどんな利用者が増えたのでしょう。
まず女性専用のフロアーを設置することで客層は様変わりをしました。また、外国人旅行客が日本にしかないカプセルホテルを観光の一環のように泊まるようになったり、バックパッカーからも支持されるホテルになっていきました。
女性客の増加は、就業社会進出で残業や飲み会が増え、それで遅くなったから宿泊しようと言うことではないようです。女性の場合、どんなに遅くなっても次の日のことを考えたら無理してでも帰る人が大半で、女性の中には、まだそのような理由でカプセルホテルに泊まることに抵抗感がある人も多いようです。
それでは、女性客はどんな人が宿泊者として増加したのでしょう。
イベントやコンサートに行くために利用している人が多いようです。特定のファンを持つアーティストのリピート観客にとって宿泊費の負担は一番抑えたいもの。日本のライブ人気に比例しており、大きなコンサートのあるときの利用者は急増します。あとは男女比率関係なく春休み、夏休み、冬休みなどの長期休暇の時、学生の宿泊が多いとの事。また、就職活動や受験生などにも利用しています。
今時の清潔感のあるカプセルホテルは、若い学生たちにとっては気軽で安心してご利用できるホテルのようです。また、予約が気楽にできお財布にもやさしいことが一人旅愛好者に人気とか。
■外国人にとってアトラクション感覚「カプセルホテル」
訪日観光客にとって日本独自の文化や施設というのは人気があります。日本人にとっては珍しくないものも、外国人からすれば「クール」と感じられます。もちろん節約のために宿泊するという人も多いようですが、日本国外にはこのような形状のホテルがないためにアトラクション感覚で泊まっています。SNSなどに「ハチの巣の中にいる幼虫になった気分」「SF映画に出てくる宇宙船みたい」といった感想は、一度ぐらいは泊まってもいいという感覚でしょうか。
一度それを利用した人は想像以上に快適と言う声もありますが、やはりカプセルホテルはその狭さが窮屈で体格の大きい外国人にとっては、毎回カプセルホテルを利用するのは心配な面もあります。あと清掃のために昼間の一定時間は利用できませんので、毎回チェックアウトが必要なために長期滞在に不向きとの声もあります。
海外には“安価で気軽な宿泊施設”としてバックパッカーに人気の簡易2段ベッドのドミトリー宿泊施設があります。カプセルホテルと同様に「簡易宿所」で施錠ができる空間はなく、しかも相部屋が前提です。ですが、知らない人同士が出会いコミニュケーションがとれることこそ旅の醍醐味という社交的なバックパッカーには、いまだ人気の宿泊施設です。
そのような理由が海外でのカプセルホテルの普及を遅らせているのでしょうか。
ホテル間の競争が激化するのはカプセルホテルばかりではなく、一般ホテルやビジネスホテルも同じこと。そして世界中が観光ブーム中、新設のホテルラッシュは続き、価格やサービスの競争は常にあります。それでも、この日本発のカプセルがどこかの国にオープンしてほしいと思うのは内向的な日本人の考えなのでしょうか。
(文:KEIKO YANO (矢野 恵子) / 更新日:2019.06.04)