3. 安い商品がやってきて安いものが売れる時代が長かった
Q:30年前から日本の企業が工場を海外に移転するということは製造業が衰退していく、産業の空洞化になると言われ続けました。それでも海外移転する企業は多かったのですが、昨今その明暗がでてきました。
一方、さほど海外移転をすすめていなかったインテリア・家具業界はこれからはどのように進むと思いますか?
日本全体をみれば地方のものづくり産業は復興すべきで、日本で製造すればそれだけ日本の国力になっていくので、製造業は海外から日本に少しずつ戻ってくるのではないでしょうか。
日本の技術力は世界に誇れる力です。インテリア業界の製造業も同じです。
よくヨーロッパで流通させるならヨーロッパでつくればいいじゃないかと言われる。輸送コストや手間を考えればそのほうが価格も下げて売れるし、利益もそれなりに出るしいいじゃないかと言われます。
ですが、われわれは日本での製造にこだわります。
一時期イタリアの企業は、中国の経済路線にたよろうとしていました。今は経済的なメリットはなかったと一帯一路から撤退しましたが、富裕層市場をターゲットにしているイタリア・インテリア業界にはメリットはあったと思います。大きな売上げを上げていました。売上げを大事にするイタリア・インテリア業界にとって中国経済がダウンしたことは大きな損失だったと思います。その上イタリアブランドの模造品もたくさん出回りました。
一方、日本ではこの2~30年は機械化がすすんだアジアの近隣諸国で製造された安価なインテリア用品、家具類が席巻しました。家具やものづくりをやる立場としては、ここに価値があるのかわかりません。それはぜんぜん違うと思っています。日本にとってよかったことはなにもなく、捨てられるものがたくさん増えただけだと思います。
ただ安い商品がやってきて安いものが売れる時代が長かった。しかし、その時代も終わったと思います。
建築家ピーター・ズントーの「Peter Zumthor collection」のシェーズロングとミラノデザインウィーク2023で発表したClaesson Koivisto Runeの照明プロダクト「Drop paper lamp」
TIME & SYTLE MIDTOWN(六本木店)
画像:インテリア情報サイト撮影
30年前の日本のインテリア業界は独自のマーケットをもっていました。日本の市場向けの製品づくりをしていればそれでよかった。世界に対して、日本の企画、テイストをマッチングさせてこなかった。転換していかなかった。海外をみるとサイズや求められているものが違う。またイタリアにイタリア風の家具を持っていってもなんの意味もない。ブランドづくりを世界と同じ速度でやらなければ日本のインテリア業界は発展しません。しかし、時代は変化しているのに根底にある古い日本市場依存と西洋志向は今も変わっていません。
家具をMDF(中密度繊維板)や人口樹脂系(プラスチックなど)を使って工業製品化して、デザインやマーケティングでブランド化したイタリアメーカーは、その素材をメインにしているところが台頭してきて最近では売上げは伸び悩んでいます。また国内の生産拠点のほとんどが東欧や諸外国に移っている北欧メーカーなど、世界のインテリア業界も万全ではありません。
コモデティできる製品をブランド化してもすぐに模倣されたり、製造工場を国外に移転させるインテリア業界の中で、製造技術力の高い日本の木工家具メーカーにもチャンスがでてきました。
日本のインテリア・家具業界は、アナログなものづくりが多いのですが、かつての北欧家具のものづくりに似ていると思います。国内の職人が一脚づつ丁寧に作り上げる椅子は、決してイタリアや北欧の製品に劣っておらず、むしろそれらを上回る製品も多いのです。
毎年4月にイタリアで開催のミラノデザインウィークには日本メーカーも多く出展しています。このデザインウィークはデザインに関する企業やデザイナーが街中に出展するイベントです。中心となるのがイタリア家具工業連盟主催の国際家具見本市(通称ミラノサローネ)で、見本市会場やミラノ市内では日本の家具メーカーのマルニ木工、宮崎椅子、リッツウェル、カリモクなど継続で出展している企業も多くなってきています。その積み重ねで、日本製のインテリア・家具の認知度は年々上がっています。
これから日本の市場が大きくなるわけではないので、今後成長するかを考えるとき、未知数にある世界に挑戦する企業が多くなることはインテリア・家具業界にとって良いことです。
ミラノデザインウィーク2023にて発表した建築家 隈研吾デザインの「KA sofa」と手前の丸テーブルはTime & Style ēdition 「 Oke - low table」
TIME & SYTLE MIDTOWN(六本木店)
画像:インテリア情報サイト撮影
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(文:KEIKO YANO (矢野 恵子) / 更新日:2024.03.25)