4. 日本にはものづくりが一番合っている。
Q:日本の消費財ものづくりは日本の基幹産業になりますか?
日本の消費財ものづくりは日本の基幹産業になるべきです。日本にはものづくりが一番合っています。
今回の地震(令和6年能登地震)では、被害に遭われた大勢の方々には心よりお見舞い申し上げる共に一刻も早く復興できますように願っておりますが、ニュースを見て残念なことがありました。
輪島塗の工房や漆器店が連なる観光名所「朝市通り」の火災や耐震性の弱さで古い建物が壊れていきました。それはしかたがないことですが、能登半島付近には築100年~250年くらいの古い木造家屋が多く残存しており、いずれも梁の太い立派な木造の伝統的な建築物です。それがすべて全壊したのかの詳細はわかりかねますが、なんとかこの風景は残してほしいと願いました。
日本のハウスメーカーが建てた家は壊れず残っているところもあります。それを見て2×4工法などの西洋風の家は良くて古い日本の在来工法の家はよくないとなります。
たとえば、ここでハウスメーカーを子会社に持っているトヨタが、能登の再建を一気に引き受けて、以前のような町に復興させると宣言したなら、流れは大きく変わると思います。それも鉄骨造やRCでなく木軸の在来工法での住宅づくりでです。
鉄に強いトヨタの家づくりでなく国産の木材の家作りです。
Time & Style ēdition「Shoji」(左側の衝立)、欧米で人気の名古屋の指物師と美濃和紙職人が作る和紙の雪洞照明が吊るされた空間
TIME & SYTLE MIDTOWN(六本木店)
画像:インテリア情報サイト撮影
森林大国である日本には上質な木材があるのに、近年の家作りには国産材がうまく生かされずにきました。現在、木軸建築の耐久性、耐震性、防火性は大きく改新され、中高層の建築物が建つ時代です。2025年開幕の大阪万博での世界最大級木造建築物「大屋根リング」が税の無駄遣いなどと物議を醸しだしていますが、それでも日本での木造建築は進化すべきです。
伊勢神宮の正殿など65の建物を20年ごとに造り替える「式年遷宮」は、宮大工たちの匠の技を伝え続ける伝承作業といわれています。伊勢神宮の神宮司庁と宮大工たちの協力で1300年の伝統を守り抜いています。
匠の伝承は最低でも20年は必要といわれる所以でしょう。
日本の消費財ものづくり文化も伝承には時間がかかります。
それには上質な素材も含まれます。日本には世界に誇れる伝統的な素材文化もあります。素材は世界で評価されています。これをもってして活かしきれていないのが現状です。
山や川を越えれば越える数だけ伝統や文化があると言われている日本のものづくり。日本の素材を使ってものづくりをすればサスティナブルだし、それが高価格になっても、昔からのものづくりに付加価値をつけて流通させれば、マーケットを世界レベルに変えられます。
Q:日本の木材にこだわる必要はありますか?
もちろん国産材は品質が良くて、輸入材だから劣っているということはありません。ですが、素材も製造も日本製にこだわるものづくりは大事です。なぜなら、世界はその製品を望んでいるからです
しかし、日本メーカーは工場が国内にあっても、材料は海外からもってきたもので製品を造っているものが多いです。
木材だけにこだわれば、日本の木材は樹齢50年~100年が一般的で、中には200年樹齢もあります。海外ではこれだけの生育時間をかけた木材はあまり流通していません。針葉樹、広葉樹のどちらもです。生育時間をかけた国産材は輸入材に比べると木目がまっすぐで年輪が狭く、年輪が狭いことで見た目は美しく、節で切れ目やさけ目の変形もあまりありません。今では国産ウィスキーを入れる樽はほとんどが北海道産です。それは発育に時間がかかる日本の材木はきめが細かくウィスキーを入れる樽に最適だからです。
手前のローの丸テーブルは吉野杉で作られたTime & Style ēdition 「 Oke - low table」
TIME & SYTLE MIDTOWN(六本木店)
画像:インテリア情報サイト撮影
国産材は製材から乾燥、木取りまでのプロセスと時間軸が長くかかり、ある一定のスケールの木材の取扱量にならないと原価率が高くなります。そのため卸売りをすると利益がないため、まずは自分たちで売ることをわれわれは考えました。自社製材する規模もある一定の水準に至るまでは原材料での利幅が出ないので、より高品質な製品を作り高価格で販売するマーケティング戦略をとっています。
その他、日本から製品をわざわざ持ってきて、いまさらなんで同じような製品を売っているのって感じになるので、木製品だけでなく、ソファや椅子に張るファブリックやレザーも日本各地での伝統的手法による製造に拘っています。
因みにタイムアンドスタイルの製品は家具以外に陶磁器や漆製品、ガラス器、照明器具、タオルなどがありますが、これらの製品も素材も製造もすべて日本製です。各地の職人や製造工場と一緒にプロトタイプで何度も検討して製品づくりをしています。
TIME & SYTLE MIDTOWN(六本木店)
画像:インテリア情報サイト撮影
価格を安定させるために独自のルートで木材を仕入れています。われわれは旭川ファクトリーに製材所を持っていますので丸太からでも仕入れができます。材木マーケットではケヤキは最高の素材ですが、今は人気がなく誰も買わなくなりました。ですが、木目を読んで製造すれば日本風の清楚な素材の良さ、仕上げのよさをアプローチできる製品が完成します。それがおもしろい。
日本の木は理解された使い方をされていない、それが現状です。でも、工夫次第で宝となるのが日本の素材です。
日本の針葉樹と広葉樹を使った空間を推進するのはとても良いことです。だからといって家具に国産材を使うのがどういいかは旨く説明できませんが、折角森林が80%の国土をもつ日本の木材を家具に使わないのはもったいない。ましてや上質な家具を小ロットで造れて販売できるのは日本だけです。
北海道(旭川・東川町)のTIME & STYLE FACTORYには製材所も併設している
画像:(株)プレステージジャパン提供
世界は、素材から製造までの日本製ブランドを望んでいるのです。
まずブランドをつくってどーんとプロモーションをかけて、製品を作りだす西洋嗜好ではなく、古いものと新しいものの融合で進化させる思想が入ったものづくりが“日本”ブランドだと思います。
海外から安価な素材や製品を輸入してどうしようもないデザインの製品を大量に作って売っても先は見えてきません。AIの時代に機械だけを使って製品を作ったと行っても、手段が変わって少し楽になっただけでなんの進化もありません。
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職人(技術者)として生きることは幸せ?
(文:KEIKO YANO (矢野 恵子) / 更新日:2024.03.25)