突然ですが、みなさんは「日本らしさ」と言われて何を思い浮かべるでしょうか。
インテリアデザインという文脈で日本の美意識を考えようとすると、「シンプル」「簡素」「わびさび」「禅」といった概念がまず取り上げられることが多いようです。もちろんそれらは日本が世界に誇れる財産ですが、それだけが日本人らしさではありません。むしろそれと対極にあるような、西洋のバロックを思わせる過剰なほどの華やかさで愛されている建築物が、この国にも意外に多くあります。
その代表といえるのはやはり日光東照宮でしょう。「日光を見ずして結構と言うな」という言葉でその華麗さが讃えられる一方、「悪趣味で日本的美意識から外れている」という批判もよく耳にしますし、あえてそのキッチュさを楽しむという向きもあります。これほど人によって評価の別れる建築も珍しいかもしれません。
ここではそんな日光東照宮を主な例にとり、「日本におけるバロック的なデザイン」について、またそこから見えてくる、日本人の「真面目でストイックで繊細」といったイメージとは別の一面について、少し考えてみたいと思います。
「バロック様式」とは
その前に、西洋建築史におけるバロック様式について、簡単にですが押さえておきましょう。
バロックは、16世紀末ごろにイタリアで誕生し、世界各地に広まった美術様式です。
16世紀半ばにヨーロッパ各地で宗教改革が起こり、それによって強固な支配力を誇っていたカトリック教会が急速に弱体化してきていました。
人々の信用を取り戻すために、カトリック側も体制を見直すなど自己改革を進め、同時に布教活動の一貫として、各地に豪華絢爛な意匠を取り入れた教会を建設しました。カトリックの教えがいかに崇高で偉大なものであるかを、人々の感情を大きく揺さぶることのできる「芸術」という方法で表現しようとしたのです。それが「バロック様式」の始まりです。
その後バロックはフランスへ伝わり、王家の絶対的な権力のもとでさらに発展しました。
楕円をはじめとする幾何学図形を複雑に組み合わせて構成される、ダイナミックなうねりを感じさせる内部空間。彫刻や絵画で執拗に埋めつくされたインテリア。大げさなほどに壮大で華麗な表現。これらがバロックの特徴です。
実現に大きな経済力を必要としたバロック芸術は、権力の強さを周囲に示すための表現として(カトリックやフランス王家などの)権力者に大いに利用されました。しかしバロック自体は「全てのものは変化する」「世界は矛盾に満ちている」「人はいつか死ぬ、だから現在を生きるべきだ」といった、権力の強さを謳うにはふさわしくないのではないかと思えるようなテーマを持っています。
次は、本題である日光東照宮の成り立ちと建立当時の社会的機能について見てみましょう。
(文:maki / 更新日:2013.06.20)