作る・売る・発信する・・・すべてに自前主義を貫きながら、出会いや偶然を楽しんでビジネスチャンスに活かす、ミチ・コーポレーション。今回は、そんな同社のものづくりの「素(もと)」を探ります。
「自分たちの商品を自分たちで使えることも、ものづくりの上で重要なこと」と、植田さん。「スリランカの地震では、老人や子どもなど弱いものから死んでいき、暴動が起きました。いざという時に使えるもの、大事な人たちを守れるかどうかというのも、僕たちのものづくりの根底にあります」。ミチ・コーポレーションのスタッフ6人と家族がライフスタイルを変えることなく、暮らしていける状況をキープする。そのために「畑を持っていますので、野菜は1年を通して買う必要がありません。服はサンプルを着れば、買わなくてもいいわけです」。いざという時の安全保障も発想のベースに織り込み、ものづくりの素にしている植田さん。「そもそも、なぜこの西東京市にオフィスを構えたかと言うと、この辺りは岩盤がしっかりしていて、東京で地震が発生したら最も安全だと思ったからです」と笑って答えてくださいました。
前回で触れた「ぞうさんペーパー」「ぞうさん緑化マット」以外にも、他では見ない独自の商品がそろうミチ・コーポレーション。その一つひとつには、ストーリーがあり、企画開発する人・作る人の思いがあります。たとえば天然素材のパステルは、スリランカのジャングル生まれ。
「現地の人が、コブラに気をつけながら原料を採取して」現地工場で人の手によって捏ねて作られています。「このパステルは、使いやすいと作家さんたちに好評なんです」と植田さん。「色同士のなじみがいいので、複雑な色合いを作り出したり、雰囲気のあるテクスチャーを表現することができます。ガラスや布にも描くことができるんです」。
天然ゴムで作られたフィギュアは、同社が発掘したスリランカのアーティストが原型の彫刻を制作。石膏で型を取り、生産するため「最小1個でも作れます」。「伝統的な製法だと、いろいろな種類を作ることが可能になります。よくある“プラスチックを使って中国で生産”的な、ほかの人がやっていることはやりたくないんです」。また同様に「たとえば金型ひとつを作るのに1000万円もかかるようなものづくりもできません。たった1種類の、しかも一部を作るのに、投資が莫大ではやってられません」とも。
植田さんがものづくりのクリエイティヴィティにおいて、常に心がけていることは「冒険的ものづくり」。同社のアパレル商品は、映画「インディ・ジョーンズ」をコンセプトにしたもの。「僕が好きだというのもありますが、危険を意識したものづくりは、ワイルド感が出ておもしろいと思います」。ニッチな層ではありますが「たとえば『バック・トゥー・ザ・フューチャー』など、何年にも渡って愛される名画は、世界のどこの国でも必ず1%はファンがいて、しかもお金に糸目をつけないという熱狂的なファンだったりするんですよ」。この1%をどう見るか、植田さんは「初めからコアな層に向けたものづくりですから、分数的には商品が愛される確立は高いと思っています」と。「僕たちのビジネスにマーケティングはありません。大量生産できないこともありますが、マーケティングは結果として、みんなが同じところを狙うものですから」同じ場所での競争を意識しない、ものづくり。「世界中にいる“同じものが好きな人”に向けて発信できるアンテナを持っていれば、マーケティングは必要ないと思います」。
次回は、ミチ・コーポレーションのビジネスにある「大義」について特集します。
公式HP http://www.michi-corp.com/
(文:宮内 有美 / 更新日:2011.03.20)